奔放な女性の幸福度は一途な女性よりも上

アキに振り回されっぱなしの百鳥ユウカさん(34)は、自分よりも幸せそうなアキをみて不満が溜まっているようです。

ひとりには大きすぎる客用のベッドのうえで、ユウカは寝ながらずっと携帯をみていた。

携帯にはアキからメッセージが残っている。

「今日は、先に帰って。タクシー代ロッカーの中に置いておくから」

簡単なメッセージの通り、ロッカーの中にはアキからのタクシー代が置いてありそれを受け取って、ユウカはひとりで六甲の家まで帰ってきたのだった。

家には飼い犬のジョンしかいなくて、竜平も仕事で香港に出かけていた。

ベッドの上で横になって同じメッセージを繰り返し見ているユウカ。返事をするのもなんだか癪だから、既読をつけたまま。なんで癪だと思うのかもわからないけど。

「もう!」

ごろごろベッドのうえで転がって、えいっと立ち上がる。いろいろ考え過ぎても仕方ない。あの後、幕田とアキがどこに消えたのか、考えるのも馬鹿らしい。

幕田も幕田だ。

私に会いにお店まで来たのに、結局はアキと一緒に消えた。

(あいつ、たしか既婚者だったよな!)

なんだか一人で悶々としているこの状況が、関西に来てからのユウカを象徴しているようで、ひとり苛立っていた。自分は「結婚できない」ともがいているのに、アキはその横でひらりと自由に生きている。別に羨ましくない、と口では強がっていても、心はいつも複雑な思いを抱えている。

アキは以前こう言った。

「私は愛を求められたら、できるかぎり愛を与えたいと思う。そうしたら、愛は何倍にもなって私に返ってくるから。私は愛に包まれた生涯を送る」

この言葉を聞いてから、ユウカはずっと悶々としていた。

なぜならユウカの恋愛観とは180度真逆の考え方だからだ。

ユウカは心の底からひとりの男を愛したいとずっと思っていた。だから、不倫と言われても、ストーカーと呼ばれても、 この男と決めたら全力で突き進んでいた。そう、いつだってユウカの恋愛は全力だったのだ。

ところが、アキは恋愛に振り回されるようなことはしない。いろんな男を周辺にはべらかせて、いつでも好きな時につまみ喰いをしている。楊貴妃が大きな皿にたんまりと積まれたライチの実の中から好みの実をチョイスするように。

(自分が惨めに感じるからこんなことは考えたくないけど、どうしてアキさんの方が幸せそうなの?)

本当なら、誰にでも股を開く奔放なアキは幸せからは程遠く、一途に運命の男を求めている私こそ、幸せになるべきと思う。

でも、実際はその逆。

アキは愛を与えた分、愛が戻ってきて充実した日々を送り、私はストイックに男を断っていても、誰からも褒められないし、神様からのギフトもない。

実際、お店での人気も日に日に上昇しているユウカは島田以外にも言い寄ってくる男はいるけど、ユウカはお客には店以外の連絡先は教えていなかった。同僚の女の子からは信じられないと言われていたが、ユウカはメッセージだけとはいえ、何人の男を同時に相手するような器用なことは気持ち的に無理だと感じていたからだ。

でも、アキを見ていると、何人もの男に愛を振りまく生き方こそが正解で、ユウカの今まで人生は間違っていたようにも思ってしまう。

私はこの先ずっと愛し続けられる男を一人だけ選びたいだけなのに。

(神様、わたしの願いはささやかだと思うんだけど……)

***********************************************

すでに夜は明けていた。

いまいち眠れなかったユウカは、お腹が減ってきていた。

下に降りると、アキが帰ってきたのと玄関でちょうど出くわした。

「ただいま、ユウカ。おとなしくしてた?」

「アキさん、おかえりなさい。どこに行ってたんですか」

「ふふ、知りたいの?」

「いえ、別に……」

「なら、いいじゃない。朝ごはん食べた?」

「まだです」

「じゃあ、これから作るわ」

リビングでアキは独特のフレンチトーストを作ってくれた。

トーストを焼いた後に牛乳に浸し、さらにその後フライパンの上でバターととき卵と一緒に焼くフレンチトースト。がっつりカロリーの味のするフレンチトーストだが、お腹の減ったユウカにとってはちょうどよかった。こういうちょっと驚くレシピをアキはたくさん知っている。一度、クリームおにぎりというものを食べさせられたことがあるが、意外にもイケる味に竜平と舌鼓を打った。

「ユウカ、今日家にいるでしょ。私、ちょっと午後に外出しないといけないから荷物を受け取ってもらえる?」

「何が届くの?」

「ふるさと納税の返礼ギフトよ。蟹が届くそうよ。竜平さんが頼んだんだって」

「へぇ」

「あの人そういうのに乗るのが好きなのよ。でも、こんな不健全な制度はすぐになくなると思うわ。地方に税金を納めるのは構わないけど、タダで物をもらってるんだから」

「そうなの? CMもよくやってるし、なんか良いことのような気がしてたけど」

「地方が本当に活性化すればね。でも世の中そんなにうまくいかないわ」

午後1時。仮眠をとったアキが外出すると、家の中はとたんに静かになった。

飼い犬のジョンはソファの横のベッドでずっと寝ている。

「ジョン、いつもよりおとなしいな。どうしたんだろう」

ジョンの寝顔を見ていると、来客のベルが鳴った。

「あら、蟹が届いたのかしら。意外に早かったわね」

開錠のボタンを押す。そしてインターホンに向かって内玄関まで荷物を持ってきてもらうように頼んだ。

「いえ、私はジョンくんの回診に来た高畑というものです」

相手を確認もせずに開錠したのはしまったと思いつつ、ユウカはモニターを確認してハッとした。モニターに映った男の雰囲気はどことなく隆二に似ていた。

この連載について

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結婚できない2.0〜百鳥ユウカの婚活日記〜

菅沙絵

友人たちが彼女につけたあだ名は「レジェンド・ユウカ」。結婚市場に残された最後の掘り出し物という意味らしいが、たぶん揶揄する意味もある。妥協を知らない女が最後にどんな男と結婚をするのか、既婚の友人たちは全員興味深げにユウカさんを見ていた...もっと読む

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コメント

moe_sugano このタイトルはほんとうにそのとおり。一途って自殺行為なんだよ。自分で自分の首を絞めるだけ。> 4日前 replyretweetfavorite

sizukanarudon 菅沙絵@sae20160325 https://t.co/oCLX40pdAB アキは愛を与えた分、愛が戻ってきて充実した日々を送り、 私はストイックに男を断っていても、誰からも褒められない… https://t.co/eAfTb9mQE6 4日前 replyretweetfavorite