犯罪をなくすために法律をなくすような発明

たまに嚙むことってありますよね。どれだけ噛んでも噛んでない。そんな恐るべき発明を博士が作りだしてしまいました。どういうことでしょうか。

古見宇こみう博士
23歳男性。生後一週間でマクローリン展開をする。四歳でハーヴァードに入学。六歳で数学の博士号を取る。二十歳で万物理論を完成させたのち、「コミュニケーション」の発明を行う古見宇発明研究所を設立する。

ニケ
32歳女性、千葉県出身。古見宇研究所助手。好きなものは竹輪とGINZA。嫌いなものはセリーヌ・ディオン。「宇宙の解」を知って絶望していた博士に「コミュニケーション」という難題を与え、結果的に古見宇研究所の設立に繋げる。



「……それでですね、この前、車でこうしょく道路に乗ったら—」

 一週間前のことだった。雑談中に私が「高速道路」を噛んでしまったら、博士がすかさず 「こ、う、そ、く道路のこと?」と指摘してきた。

「ああ、そうですよ。思ったんですけど、博士って私が噛むとかならず指摘しますよね」

「まあ、ひとつひとつの言葉を大事にしているからね」

「でも、別にちょっと噛むくらい見逃してくれてもいいじゃないですか。些細な問題ですし……」

「些細なもんか。言葉を噛むという問題は、人類史を通じた課題でもあるんだよ。ヒトが言葉を使い始めてから、何万年もずっと解決できなかったんだ」

「そんなに言うんだったら、私が今後噛まなくなるような発明品を作ってくださいよ。自分でも舌足らずなところを治したいと思ってるんです」

「噛まなくなる機械か……わかった。おもしろそうだね。人類史に対する挑戦だ。まあ、僕なら一週間で解決するさ」

 それから博士は「噛まなくなる」発明品に夢中になっていた。

 そして一週間が経ち、どうやら発明品が完成したようで、私は博士に研究室まで呼ばれた。

「ようやく完成したよ。もう二度と噛まなくなる装置、通称『きゃりーぱみぱみくん一号』さ」

 博士は壁一面に広がった巨大な機械を指さした。何かで見たデータセンターみたいに、機械が数メートルにわたって敷き詰められている。私はてっきり、自分の口にはめる装置のようなものを想定していたので、まずその巨大さに驚いた。

「この壁に沿って置かれた機械が全部、そのナントカって装置なんですか?」

「そうだよ。ニケ君を今後噛ませないために、世界でもっとも高性能なPCを用意する必要があったんだ。このPCは11次元高次計算機さ」

「あ、よく出てくる11次元のやつですね」

「これを発明するのに徹夜が続いて大変だったよ。なにせ、宇宙全体のモデリングを行っているからね」

「宇宙全体? どうしてそんな壮大な話に……」

「そうするしか解決の方法がないと思ったんだ」

「そういうものですか……」

「僕はまず、ニケ君はどうして噛んでしまうのか、その原因を探ったんだ。三日間にわたって、ニケ君とのすべての会話を録音、分析したんだ。喉の使い方、口の開き方など、あらゆる要素を調べた」

「そこまでしてくれたんですか……」

「それで、ニケ君が噛んでしまう原因は三つ—歯並び、舌の筋肉の弱さ、腹式呼吸のできなさ—だということがわかったんだ」

「何か、悪口を言われているような……」

「悪口ではないよ。事実だから仕方ない」

「まあそうですけど……。それで、この巨大な装置を使って三つの要素を克服するんですか?」

「違うよ」と博士が断言した。「それじゃあ遅いんだ」

「遅い?」

「たとえば舌の筋肉を鍛えるために今からトレーニングをしたら、何ヶ月もかかってしまう。歯並びの矯正や腹式呼吸の訓練も同じだよ。僕は『一週間ですべて解決する』と言ったからね」

「それらのトレーニングをこの装置を使ってパパッとやるのかと……。ほら、仮面ライダーの改造手術みたいなやつですよ」

「あり得ないね」と博士が首を振った。「人体改造の類は、僕がもっとも嫌いなものだからね」

「じゃあ、どう直すっていうんですか?」

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古見宇博士の珍奇な発明

小川哲

二十歳で「宇宙の解」を知って生きる気力を失った大天才、古見宇(こみう)博士。そんな彼が絶望の果に見出した謎は「人間関係」でした。まだ誰も光を当てていない種類の「コミュニケーション」に関する発明品を作ることに生きがいを見出し、古見宇発明...もっと読む

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