男性免疫ゼロからの結婚・妊娠・出産
—— 本日は、ご自宅にお邪魔してしまってすみません。
カザマアヤミ(以下、カザマ) いえ、こちらこそご足労いただいてありがとうございます〜。
紺野あずれ(以下、紺野) ときどき娘の世話をすると思いますが、よろしくお願いします。
—— カザマさんは以前からストーリー漫画の分野でご活躍されていますが、30歳まで男性免疫ゼロだったのに婚活を始め、マンガ家仲間の紺野さんとの結婚にこぎつけるまでを描いた『恋愛3次元デビュー』を2014年に刊行したことで話題となりました。
—— そして今回の『出産の仕方がわからない!』は、カザマ・紺野夫婦が不妊治療に取り組み、妊娠・出産にいたるまでを1冊で描いた、これまた怒涛のコミックエッセイです。
カザマ 言われてみると本当にめまぐるしい!
—— 実際に妊娠されている間に連載をなさっていたんですよね。いつごろ連載のオファーがあったんでしょうか?
カザマ いつぐらいだったかな? 覚えてる?
紺野 つわりが収まってきたあたりじゃなかったかな。
カザマ そうだ! 妊娠5〜6ヶ月くらいのタイミングに「コミックエッセイを描きませんか」とメールをもらって、そこから連載の話がすすんだはずです。全体のページ数は決まっていたので、「描けるところまで早めに描き終えて、出産前はちゃんと休むぞ!」と思っていたんですけど、結局出産直前まで描いていましたね。
—— 妊娠・出産の話は、もともとマンガで描きたいと思っていたんですか?
カザマ 不妊治療についてはいろいろな方に知識がひろまったらなと考えていました。なのでKADOKAWAさんからお話をいただいたときにこちらから「不妊治療について描きたいです!」と伝えたところ、「出産・妊娠がメインだとありがたいのですが……」と返ってきて、すべてを入れることに(笑)。
—— そういう経緯だったんですね。でも、「出産」にもフォーカスしたことで間口が広がり、「不妊」について考えたことのない方にも届いているのではないかと。
カザマ そうですね、だから結果的にはよかったかも。
—— 読者からの反響はいかがですか?
カザマ 単行本が出てからは結構いただきますね。ストーリー作品のファンの方は男性が多いので、あまり出産自体にはピンときてないと思うんですけど、「大変なんですね!」という感想をいただくことがあります。
紺野 ぼく、飲み会行くと女性陣から感想をもらうことが多いです。「奥さんのマンガ読んでますよ! すごいですね!」って。熱烈なファンの人多いですよ。
カザマ うれしいかぎりだね。
—— 婚活マンガも出産マンガも刊行点数が増えて多種多様になっていますが、カザマさんほど、あんなにかわいい絵柄なのに事実を赤裸々にさらけだしてつづっている方はいないと思います!
カザマ ありがとうございます(笑)。
苦労した「妊娠しやすい身体づくり」
—— 不妊治療期間や妊娠期間は、周りに情報交換できる仲間はいたんですか?
カザマ そうですね、ちょっとは話したりしてました。
—— 私はまだ結婚も妊娠も経験がないんですが、周りと共有しにくいデリケートな話題という風潮はあるのかなと思っています。
カザマ それはあると思いますね。私は自分が人に言いたいタイプなんですけど、言い方がざっくばらんすぎるのか、うまいこと受け取ってもらえないことも多くて。コミックエッセイでこういう発信をすることで、お互いにちょっと話しやすい空気になったらなあとは考えていました。
—— それこそ私のようなまったく未経験の女性にとっても、こういう情報が得られるのはありがたいです。
カザマ そうなんです。私も未経験のときにもっと知っておきたかった!と思ってたので。あと婦人科検診は本当に早めに行ったほうがいいです。いざ子供を作りたくなった時に不妊を知るよりは、あらかじめ知っておいたほうがいろいろな判断がしやすくなるかと。
—— さらに言うと、男性も知っておくといい話ですよね。
カザマ そうそう! 紺野さんは35歳になるまで、『危険日』のほうが『安全日』より多いと思っていたし。
紺野 あれね、本当に衝撃だったね。避妊具つけないでセックスしたら絶対妊娠する、くらいの知識でいたんですよ、ぼく。エロマンガとか読んでても「避妊しなくて大丈夫なのかな?」って心配で。
カザマ まあ、エロマンガは避妊しなさすぎなんだけどね。男性は「避妊せよ」とだけ言われすぎていて、逆に妊娠について知らされていないんだなと思いました。
—— 知らないことは多かったにしても、紺野さんは実際に不妊治療に入ってからの協力体制がすばらしいなと思いました。未妊娠女性でも知らないことは多いですし。「妊娠しやすい身体づくり」というのがあるんだ、というのは本を読んで驚きました。
紺野 ラ◯ザップ、大変だったよね?
カザマ ラ◯ザップはね……。食べ物を糖質制限しなきゃいけないのが、本当につらかったです。炭水化物って美味しいし、安いし、種類もいっぱいあるじゃないですか。それを禁止されるともう、何を食べていいのかわからなくて。しかも炭水化物が入っていないお弁当とかって売ってないから、全部自分で作らなきゃいけないんですよ。それらを総合したストレスが半端なくて。
紺野 コンビニで手軽に買えるものって、だいたい炭水化物だからね。
カザマ そうそう〜。あと、ちょっと気持ちを高めたり贅沢したりしようと思って外食に行くと、何も食べられるものがなかった。
紺野 一時期、枝豆ばっか食べてたよね。
カザマ 枝豆、めっちゃ食べた。
パニックのあまり「今日ヤれって!」と叫ぶ
—— どれくらいの期間食べられなかったんですか?
カザマ 4ヶ月くらいですかね。ラ◯ザップ自体はもっと前に終わってて、まあいいかなと思って採卵までの間に糖質とったら、すぐ卵の成長が悪くなったので泣く泣く再開しました。
紺野 泣いてたっていうか、卵にキレてたよな。
カザマ そりゃそうですよ。「もう〜、卵はすぐこうなんだから!」って怒ったよ。
—— あ、糖質は卵子の成長にかかわるから制限しないといけないということなんですね。
カザマ 私の通っていた病院ではそういう方針でしたね。
紺野 だから僕もつきあっていっしょにラ◯ザップに通い始めたんだけど、ウェイトトレーニングをすると頭が痛くなる体質だということが発覚し、1ヶ月で退会しちゃったんですよね。
カザマ びっくりしたよ! 紺野さんはすぐ糖質も再開して、夜私に隠れてこっそり炭水化物を食べていました(笑)。
—— それでも途中まではつきあってくれたという思いやりが素敵ですね。
不妊治療の過程で性行為の日取りまで医者に指定されたのを紺野さんにどう言おうか悩みすぎたカザマさんが「先生が今日ヤれって!」と叫んだときの、紺野さんのリアクションがかっこいいと思いました。
カザマ あれは私がダメすぎたけどね……。
紺野 そうなの?
カザマ この間お会いしたマンガ家さんに「うちは旦那が繊細なんで『ああいう種馬みたいなのはちょっと……』と言ってた」と言われました。
紺野 男ってそんなにデリケートなのかい? ぼくは別にいいなあ。
カザマ あなたはそうでしょうよ(笑)。
紺野 「あーわかった、やろうか」って感じだよ。
—— 男前だ!
カザマ 我が家の場合、紺野さんがこういった人だから乗り切れた部分がかなりありますね。
(つづく)
次回、『「野生に還る」ことで乗り切った不妊治療』は1/25更新予定。
聞き手・構成:平松梨沙
『出産の仕方がわからない!』本編はこちらからご覧いただけます。