僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
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双倉図書館にて
イベントは《いにしえの数学》という企画で、 さまざまな国の、古い時代の数学についてパネル展示がなされている。 しかし、それだけではない。あちこちのパネルには関連する数学の問題が掲示されていて、 実際に数学を楽しめるようになっているのだ。
もちろん、ミルカさんやテトラちゃんもいっしょに来ているのだが……
ユーリ「お兄ちゃん、早く早く! たっくさんパネルがあるから、全部まわるのに時間足りなくなるよ! ほら、は・や・く!」
僕「ちょっと待った、ユーリ。……ほら、ミルカさんやテトラちゃんとはぐれてしまったじゃないか。いったんエントランスまで戻ろうよ」
ユーリ「だーいじょぶだって。またすぐ会えるって。それより、ねーねー、どれから見る? 《いしにえの数学》だって」
僕「《いしにえ》じゃなくて《いにしえ》だよ。《古い》という意味だね」
ユーリ「いにしえ」
僕「順番に見ていけばいいんじゃない? ええと、ここは《古代エジプト》のコーナーだなあ」
古代エジプトの数字
ユーリ「これが、古代エジプトの数字?」
僕「そうみたいだね」
※注:ここで使用している文字はヒエログリフ(聖刻文字、神聖文字)です。
ユーリ「ふーん。じゃ、次のパネル行こっか」
僕「いやいや、『行こっか』じゃないよ。これおもしろいね」
ユーリ「何がおもしろいの? だって、《数のまんま》じゃん。 $1$は一本の線で、$2$は二本の線」
僕「僕たちはふだん、$1,2,3,4,5,6,7,8,9$のように別の数に別の数字をあてはめているよね。たとえば『$3$』という一文字で三という数を表している。 でも、この古代エジプトの……ええと、ヒエログリフでは、違う。 棒の本数を使って数を表しているんだね」
ユーリ「まーね。日本語の漢字だと『三』という三本線で『三』を表してるけどね」
僕「ああ、まあ、そうか……」
ユーリ「とにかく、《線の本数》で数を表しているんだから、やっぱり《数のまんま》じゃないの?」
僕「そうなんだけど、$10$になると、線が十本あるんじゃなくて、曲がった線一本になってるよね。だから$10$の《まとまり》を一つのものだと思ってるんだ。 ええと……説明によると、卵が$10$個入る《かご》があって、《かごの取っ手》で$10$を表しているんだって。なるほど」
ユーリ「へー……次のパネルに行こうよ!」
僕「なるほどね。書き並べるだけで、合計した数を表していることになるんだね」
ユーリ「それって、《あたりまえ》ではないでしょーか」
僕「いやいや、それほど《あたりまえ》じゃないよ、ユーリ。だって、僕たちが使っている数は違うよね。$1$と$2$を並べて書いたら、合計した$3$を表していることになる?」
ユーリ「そっか。$1$と$2$を並べたら『十二』になっちゃうか……」
僕「こっちのパネルには、もっと大きな数が書いてあるよ」
ユーリ「$100$は渦巻きみたい」
僕「$100$はぐるぐるとたくさん《巻いたロープ》で、$1000$はナイル川のほとりにたくさん咲いている《ハスの花》。それから、$10000$はナイル川のほとりにたくさん生えている《葦またはパピルス草の芽》という説明があるね」
ユーリ「ナイル川の話ばっかりや」
僕「エジプトはナイル川なしには語れないから」
ユーリ「《巻いたロープ》でも《ハスの花》でも、たくさん集まってるものをひとつ描いて、たくさんの数を表すってこと?」
僕「そうみたいだね。$100000$はたくさん集まっている《おたまじゃくし》で、$1000000$は、たくさんの星空を《仰ぎ見る姿》だって。そうか! $10$倍するごとに《まとまり》になるという点では、十進法だといえるね」
ユーリ「ふんふん。あ、クイズがあるよ」
ヒエログリフを使って、 $$ 12345(一万二千三百四十五) $$ を書き表してみましょう。
僕「できた?」
ユーリ「カンタンカンタン!」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)