桃みたいなかぶ、だからピーチかぶ【第14回】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』の全原稿を火・木の週2回で公開中!第2章では、心地いい暮らしを支える活動を始めている人や企業をご紹介していきます。
今回の主役は、既成概念にとらわれない発想で爆発的ヒットとなったオイシックスの「ピーチかぶ」です。

桃みたいなかぶ、だからピーチかぶ

 だから彼らは、伝統的な食の業界では想像もつかなかったようなことを、平気でしてしまう。

「はじめに」でも登場していただいたオイシックスのバイヤー小堀夏佳さんはある日、取引先である千葉の農家田中一仁さんの畑を訪ねていました。

 目的は、夏に出荷する小玉すいかの生育状況を確認すること。しかし畑を歩いていてふと目に止まったのは、端のほうに一列だけ植えられているかぶでした。まだバイヤーになって日が浅く、野菜のことをあまりよく知らなかった彼女は、土から半身を出したかぶがずらりと並んでいるのを見て、

「かわいいー。まるで兵隊さんみたいに並んでる!」

 と心を奪われたのです。田中さんは、「このかぶは旨いんだよね」とその場でひとかぶ引き抜き、土を洗って生のままのを食べさせてくれました。

「なにこれ!」

 衝撃的でした。かぶとは思えないみずみずしいジューシーさで、そして甘い。

「まるで桃みたい!」

 彼女は、前年に出荷してしまった桃のことを思い出していました。その桃はまだ熟していなくてガリガリで、ひどく美味しくなかったのです。会社からもお客さんからも叱られ、農家さんには「小堀さんがこの日にどうしても出してほしいというから、無理矢理出したんだよ」と言われて喧嘩になり……。

「あのときの桃より、このかぶのほうがずっと甘くてジューシーで美味しい。まるで桃みたい。このかぶを、桃かぶとかピーチかぶとか名前を付けて売ればいいんじゃないかな」

 田中さんにそう提案してみると、彼は意外にも冷淡です。

「これは黒いかぶだからね……売れないんだ」

「えーっ、黒くなくて白いじゃないですか。なんで黒いかぶ?」

「皮が薄いから、洗うと傷がついて薄黒くなっちゃうんだよ」

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ジャーナリスト・佐々木俊尚が示す、今とこれからを「ゆるゆる」と生きるための羅針盤

そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

この連載について

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そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』がcakesで連載スタート! ミニマリズム、シェア、健康食志向……今、確実に起こりつつある価値観の変化。この流れはどこへ向かうのでしょうか?深い洞察をゆるやかな口...もっと読む

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コメント

t_Carina オイシックスのバイヤーさん、すごいな。 7ヶ月前 replyretweetfavorite

sasakitoshinao 生で食べれて美味しいのに市場では売れないとされていたカブに、農業に無縁だったオイシックスの女性バイヤーが「ピーチかぶ」と名づけて大人気を呼んだというお話。 7ヶ月前 replyretweetfavorite

HOWL_BEAST 今この本読みよる。とても興味深い。いや、違う。感想カッコつけた。おもしろい。生活と食の話。 7ヶ月前 replyretweetfavorite

famisup  いいお話だなぁ〜 7ヶ月前 replyretweetfavorite