第2章 ともに物語をつむぎ、ゆるゆる生きる
利便性よく安全な野菜を届けたい——オイシックス
オーガニック原理主義な「反逆クール」でもなく、コンビニ弁当でもなく、高価な美食でもない。そういう日常の健全さ、心地のいい暮らしを支えていこうとする一群の新興企業や人が現れてきています。
そのひとつが、「はじめに」で紹介した食のネット通販企業オイシックス。この会社が興味深いのは、その立ち位置です。従来の産直ビジネスのように生産者目線でスタートしたわけではなく、かといって巨大スーパーや巨大コンビニのように、安価な食材を大量に供給しているわけでもない。流通を支配するのが目的でもなく、主な客層であるお母さんたちの目線でフラットなかたちで暮らしを支えていこうとしている。そういう強い意思が感じられます。
そういう立ち位置になった背景には、オイシックスの成り立ちがあるといえるでしょう。この会社は、食のことなんかまったく知らなかった世間知らずの若者たちが立ち上げました。
1990年代末、インターネットという新しい技術に取りつかれた人たちが世界中に現れ、日本でもたくさんの新しい企業が野心まんまんに創業されていきました。ヤフー、楽天、サイバーエージェントなどはみんなすべてこの時代の設立です。
オイシックスを創業した高島宏平さんもそういう野望を持つ若者たちのひとりで、東京大学を卒業した後、外資系コンサルタントのマッキンゼーを経て、2000年に仲間たちとオイシックスをつくったのです。
創業メンバーは全員が20代の独身男子で、自分で料理したことがある者さえいませんでした。びっくりですね。しかしそれがかえって食文化や食品業界についての先入観を持たないですんだ、ということだったのでしょう。