異性とセックスしないと一人前になれない気がする

今回、牧村さんのもとには「本当はしたくないけど、男性とセックスしないと一人前になれない気がする」という相談が届きました。「一人前」とはどういう状態なのでしょうか。人のセックスをとやかく言ってくる人にはどう対応したらいいのでしょうか。相談者の方に寄り添いながら、牧村さんが優しく力強い言葉を投げかけます。

※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

1月11日になりました。

都内のイルミネーションも、ぱたぱた終わってきています。クリスマスごろ街中でベッタリくっついてチュッチュしていらした皆様、お元気でいらっしゃるでしょうか。季節はめぐるものですね。

さて、セックスの話をします。

“やらなくちゃいけないもの”だと思えるからやるものって、楽しさが半減するなぁと私は思っています。カップルになる、セックスをする、っていうことも、“やらなくちゃいけないもの”扱いされがちですよね、特に忘年会とか年末年始の親戚の集まりのうっす~~~いトークの場とかで。「あとは売れ残りはお前だけか~、ハハッ!」とか言って。ハハッ。

はぁ……。

世の中から、望まないセックスがひとつでも減りますように。ということで、今回ご紹介するのは、「本当はしたくないけど、男性とセックスしないと一人前になれない気がする」という女性の方からのご投稿です。

単刀直入に、女性は男性とのセックスをしないと一人前の女ではないのでしょうか?女性との性行為では一人前とは見なされないのでしょうか?

多分しようと思えば男性とも出来ると思うけど、異性として魅力は感じることはあるものの、恋愛感情はあっても性行為はしたいと思わないのです。女性とならそういう行為もしてみたいと思うのです。

そもそもセックスで一人前になるという気がすること自体が、間違いなのでしょうか?

(ご投稿を全文そのまま掲載しました)

ご投稿ありがとうございます。そうですね、色んなこと言う人がいると思いますけど、私からは、こう申し上げたいわ。

「“異性とセックスして初めて一人前”的な価値観は、ある。でも……」

それに従ってやる義理はないわ。

自分の価値観を誰かに押しつけないと自分が信じられない人のことを、私の価値観では一人前とは呼びません。自分の考えを持ち、相手の考えも尊重し、聴いて話してわかりあう対話ができる人のことを、私は一人前と呼びます。

「私は異性とセックスしてこそ一人前になれるんだ」と思うことはその人の勝手です。でも、「お前は異性とセックスしてないから半人前だぞ、やれ」って言ってくる人がいたら、私は、まずこう聞きますかね。

「どうしてそうお考えになるの?」

おおかた、それが生物としての自然だからだとか、男と女は陰と陽だから相互補完し合ってこそ完全体になるんだとか、なんかまぁそんなようなことをおっしゃるのかなと予想します。それは、その人の考え方ですよね。「なるほど、あなたはそう思うのね」ってだけです。それに他人を従わせようとするならば、自分と異なる考え方の人の自己決定権を尊重できない、自分一人でも自分を信じるということができない、ということですから、こう思います。

「半人前は、あなたじゃない?」

ということで、やりたいセックスだけおやりになればいいと思います。

ご存じの通り、セックスというのは、たいへんリスキーな行為です。他者の性的自己決定権を尊重できない半人前の方が「異性とセックスしてこそ一人前だぞ」と言うからやってみた、といったところで、その行為はあなたを、その半人前さんにとっての一人前にするだけです。そして、そのセックスにおける、性感染症・喪失感・心の傷・こじれる人間関係・望まない妊娠などのリスクを負うのは、他ならぬ、あなたです。

「異性とセックスしてこそ一人前」とか言ってくる他人は、あなたの身体に責任をとれないんです。この国では、後輩に強い酒を一気飲みさせる先輩が、毎年のように人を殺しているでしょう。その「異性とセックスしてこそ一人前」論をふりかざす性暴力加害者に、心を殺される人だってあとを絶たないでしょう。

そんな奴らの好きにさせるほど、あなたの価値は、安くないわ。

全世界と全歴史の上でたった一人しかいないあなたの身体に、あなたの生命に、責任をとれない他人が押し付けてくることであなたがリスクを負うのは、私、許せないの。

大丈夫です。

あなたがあなたとして一人前であるためには、あなた自身を信じてください。あなたはもう、ご自分のしたいことを見つけていらっしゃる。「女性とならそういう行為もしてみたい」とおっしゃる。なら、そういうあなた自身を信じればいいだけです。

最後に、私の著書から引用しますね。2013年刊行、以降ロングセラーで、12000字書き加えた増補版が2017年1月13日に小学館から電子書籍化されることになった『百合のリアル』でわりと一番書きたかった一行です。

セックスのルールはシンプルよ。『している人同士の安全と意思がそれぞれ守られること』これだけなの。

『百合のリアル』にも書きましたが、私は、女性である私が女性を好きであることはよくないことだと思い込み、一生懸命男性とセックスをしていた時期がありました。こうした自己否定的な望まないセックスを、誰にも繰り返してほしくないと思っています。あなたの安全を、あなたの意思を、どうかあなた自身で大切にしてください。あなたが異性とのセックスで一人前になれると本当に思うなら、おやりになってもいいのかもしれない。でも、それは、本当にあなた自身の意思でしょうか。また、その異性のお相手の意思に沿うことでしょうか。

“やらなきゃいけない気がするセックス”が、“一人前に見られたいセックス”が、ひとつでも世の中から減りますように。クリスマスイルミネーションが片づけられた東京で、そんなことを私は願っています。あなたを一人前にするのは、他の誰でもなく、あなた自身です。


お知らせ


フランス人奥さんの祖父から伺った戦争の話を、牧村さんの視点で描くノンフィクション連載。
「ルネおじいちゃんと世界大戦」再開しました。第1話目はこちらからどうぞ。


noteで公式ファンクラブを開設しました!

「なんかこう、まきむぅたちとしゃべったりとかするとこ」

・牧村朝子さんと直接コメントのやりとりができ、あなたの誕生日を名指しでお祝い。
・新刊発売時に、限定サイン本をご用意。
・取材旅行時のお土産をプレゼント。
・イベントへの優先案内。
・限定動画や音声を公開。
などの特典があります。
牧村さんのことをより深く知りたい方は、ぜひご覧ください。


女同士のリアルを知るうちにあなたの生きづらさもなくなっていく?!
人生を楽しく過ごすための「性」と「知」の冒険ガイド、好評発売中です。

百合のリアル (星海社新書)
百合のリアル (星海社新書

この連載について

初回を読む
女と結婚した女だけど質問ある?

牧村朝子

フランス人女性と同性結婚をした牧村朝子さん。彼女が自らのレズビアンとしての経験を生かしてつづった新書『百合のリアル』(星海社新書)は、人間の性についてのあり方に悩んでいる人にエールを送る内容で、好評を博しています。そんな牧村さんが『百...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

n02u0_2 『自分の価値観を誰かに押しつけないと自分が信じられない人のことを、私の価値観では一人前とは呼びません』 1日前 replyretweetfavorite

a_iijimaa1 「〜でなければ一人前ではない」、という呪いに振り回される人が減りますように。 2日前 replyretweetfavorite

s_yut ついさっきしたような話でござる。「“やらなきゃいけない気がするセックス”が、“一人前に見られたいセックス”が、ひとつでも世の中から減りますように。」と祈っていただけて、嬉しい。 3日前 replyretweetfavorite

a2mitsuki この方の言う通りですね。私は普通に異性愛者だけれども。 https://t.co/OrlTqL8TXq 4日前 replyretweetfavorite