トップダウンよりボトムアップ
決定のスピードが何より問われる時代になっている中、多くの日本企業では〝意思決定の遅さ〟が致命的な弱点になっています。
どうしてそうなっているかの理由はいろいろありますが、上層部の決定がなければ何も始められないトップダウン方式(上意下達方式)になっているケースが多いことがまず挙げられます。
トップダウンであれば早いと考える人もいるかもしれませんが、それは逆です。
トップダウンの場合、経営者に判断を依頼する際には、本来は無用といえる、過去の実績を重視した資料を作成するための調査を続ける場合が多くなります。それを提出したあと、役員会での議論が行なわれ、ようやく決定することになるものです。その調査資料を作成するためにも、何か月、何年といった時間をかけることも多いのですから、それではトーナメント戦を勝ち抜いていけるはずがありません。
時間をかけて調査をしているうちに、状況が変わることも珍しくはないので、そのたびに調査のやり直しをしていれば、いつまでもルーティンを抜け出せなくなるだけです。それでは、一回戦負けどころか、試合の場に立つこともできずに不戦敗で終わってしまいます。
サムスンでは、グローバル化にどう対処するかを6か月以上かけて議論しましたが、その時間は決してムダなものではありませんでした。その議論の結果、2000年以降、トップダウンはやめてボトムアップにしたのです。
サムスングループのリーダーである李健煕会長は、将来的な方向性だけを示して、そのためにどうするべきかということはすべて下の人間たちに任せるようにしています。
それによってグループ内の意思決定が非常に早くなっています。
李健煕会長は、サムスンの大改革に乗り出した際、100年先までの方向性を示しています。しかしその一方、3年後の売上をどうするかといったことは口にしていません。そうした短期スパンのことや細かいレベルの話は完全に部下たちに委ねているからです。そのため、李健煕会長が最終的な決定をする場合にしても、そこで時間が割かれることはまずありません。
日本の企業においては、トップの指示待ちをしていたことから出遅れるようなケースは、些細なことから大局的なことまで頻繁にあるのだろうと想像されます。そのタイムロスをなくすことは、グローバル化した現代においては本当に大切です。
リーダーは、ある程度の幅を持って組織の方向性を示しておいて、本来とるべき進路を外れたときだけ軌道を修正するようにすればいいのです。
それに反して日本では、極端にいえば、決定することを悪いことだと考えている面さえあるようにも感じられます。
ひとたび決定してしまえば、トップの役割はそこで終わるので、あとはやることがなくなります。そうなれば引き返すことも指示することもできなくなるといった強迫観念にとらわれているのかもしれません。
あるいは、今日ひとつの決定をしても、明日になれば状況が変わるかもしれないということを恐れて、決定を引き延ばしている部分もあるのでしょう。
そういうあり方が致命的な遅れをつくってしまいます。
国際化からグローバル化へと変化した中にあって、「市場」「人材」「調達」「R&D(研究開発)」「競争」すべてのグローバル化を考えなければならなくなったということは先にも書いたとおりです。そうしていくためにはまず組織のあり方を見直し、意思決定のあり方を変えていかなければなりません。
それにもかかわらず、その部分に手をつけようとしないのであれば、競争に参加する資格さえ得られないままになってしまいます。
新しい分野への進出を決めた際にしても、最初からすべてを決めておく必要はありません。走り出す前に立ち止まって考え込んでいるのではなく〝走りながら考える〟——。
それくらいのスタンスでいることが求められるようになっているのです。
技術よりもアプリケーションを
この連載について
サムスンの決定はなぜ世界一速いのか
3月にシャープに約100億円の出資を行って第5位の株主となり、話題となったサムスン電子。その強みは、2009年に進出した中国のスマートフォン市場にて、2012年にはシェア首位を獲得するといった〝世界の新興市場を、最速で制覇する〟ことに...もっと読む