ユウカはOL時代、自分は同期の中で誰よりはやく結婚という幸せの形を手に入れて寿退社をすると思っていた。
それはただの夢じゃなかった。
だって、20代の頃には、ちゃんと相手もいたし、3回も結婚式場を予約していたのだから。これまで何回両親への手紙を書き、プロフィールムービーの写真と音楽の構成を考えただろう。
女の子が写真を沢山撮りたがるのは、日常の記録としてというより他人に見せるためだ。旅行にいった、印象的な瞬間を好きな人と過ごした、それだけでも写真を撮る価値がある。結婚式の時に友達に見せられるように撮っておいて損はない。
音楽は、全曲好きなアーティストで行きたいところだけど、そういう縛りってゲストからするとちょっとイタイんだよね。だから、とっておきの場所(たぶん両親への花束贈呈の時)で一曲だけ、あるアーティストの曲を流そうと心に決めていた。
「ミスチル」
ミスチルの曲を聴くと、今でもユウカの心はきゅんとなる。
ユウカはMr.Childrenのことを国民的アーティストだと思っていたが、この感覚は20代の初めの頃にミスチルに当てられた人間しか共感できないと思う。
他のバンドにはない特別感が彼らにはあると思っていたが、それが何に起因するかユウカにはわからなかった。
まだLINEもSNSもない時代、好きな相手に会えない寂しさは歌で紛らすしかなかったあの時代。ユウカは幾度の夜をミスチルと越えただろう。
ミスチルに感謝を込めて、結婚式の花束贈呈の時、使わしてもらおう。
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