モノが腐ってうれしいなんて、人生で初めて

前回、野菜作りに欠かせない腐葉土を自分たちで作るため、恥を捨てて落ち葉拾いに勤しんだ金田さん。十分な落ち葉が集まり、いよいよ腐葉土作りにとりかかります。ところが、お掃除隊からもらった落ち葉の山には、腐葉土に不向きなイチョウがたくさん紛れこんでいて…。金田さん夫婦のはじめての腐葉土作りはいったいどうなるのでしょうか?

これのどこが小屋なの?

お掃除隊からもらった巨大な10袋を合わせ、手に入れた落ち葉は22袋。いよいよ腐葉土作りのスタートだ。

「腐葉土小屋なら作ってあげる」と言っていた夫が、何やら材木を買ってきた。

工具箱も引っぱり出し、畑の隅で大工仕事を始めたのである。


どんな小屋ができるのでしょう。わくわく。

「完成したら、壁に野菜と虫の絵を描きたいな」

小春日和の空の下、やがて建つ小屋を思うと心が躍る。ところが、

「できた」

「へ?」

「できたよ」

「できたって……。これのどこが小屋なの?」

四方を板で囲っただけ。中には床板もない。

「ただの木の枠じゃん」

「ぼくもいろいろ調べたんだけどね、腐葉土は、こういうところで作るものなんだよ」

夫はドライバーを手に、むっとしている。

「屋根は?」

「ないよ」

「屋根のない小屋なんて、聞いたことないよ!」

「シートをかぶせるんだよ」

「それだけ?」

私が苦労して集めた落ち葉を、こんなチンケな小屋に入れるっていうのか? 校倉造りとはいわないが、もうちょっとマシな建物作れないの?



このあとどうなるのかと思ったら、これで終わりだったんです。

「これだって、けっこう工夫してるんだよ」

片面塗装のコンパネを使ったのは、塗装面を内側にすれば、落ち葉といっしょに板が腐るのを防げるからだという。

壁の1面だけは板を上下にわけ、上の板をとり外せるようにしたそうだ。

「そうすれば、脚の短いキミでも中に入りやすいからね」

どうだい! と胸を張る夫に、私はもう何も言うまいと決めた。円満な夫婦関係は、妥協の上に成り立つのだ。

「それとね、壁に絵を描く案は、却下だから」

「なんで?」

「農園の調和が乱れるでしょ」


そのイチョウ、とれっ!

私は“ただの木枠”に、しぶしぶ落ち葉を入れ始めた。ところが、またも問題発生。お掃除隊の集めた落ち葉に、腐葉土に不向きなイチョウの葉が混ざっていたのだ。

「あれほど口すっぱく言ったのに」

「言ったの?」

「いや、念じただけ」言えるわけがない。

イチョウのせいで腐葉土作りを失敗したら、あんな思いをして落ち葉を集めた甲斐がない。

「こうなったら全部取り除くしかないね」

「どうやって?」

「私が囲いの中に少しずつ落ち葉をまくから、あなたがそこからイチョウの葉っぱだけをつまみ出すんだよ」

幸いイチョウは黄色で目立つ。私は落ち葉をつかむと、囲いの上部からまき始めた。

「そこだ! そのイチョウ、とれっ!」

夫は私の声に懸命に反応したが、5分もたたないうちに音を上げた。

「これじゃあ、いつまでたっても終わらないよ!」

「だったら、あなたが葉っぱ入れなよ」

私は中腰になると、囲いに頭を突っ込んだ。そして、降り注ぐ落ち葉の中から、黄色い葉だけをつかみとった。

「見よ、この集中力と反射神経を!」

しかしほどなく気がついた。これを22袋も続けていたら5日はかかる。いや、2袋で発狂するぞ。

そのときだ。突然、大量の落ち葉が私の頭部に落下した。夫が袋を逆さにして、全量をぶちまけたのだ。

葉っぱまみれで立ち上がった私に、夫は宣言した。

「もう限界。イチョウは見なかったことにします」


この思い出のせいで、私はイチョウが好きではありません。

わざわざスカートをはいてきた

野菜作りの本によれば、腐葉土は、落ち葉、水、米ぬかを重ねて仕込むらしい。

夫は、落ち葉の上にジョウロで水をまくと、このために買った米ぬかを振りいれた。


これで塩を入れたら、落ち葉のぬか漬けですね。

さあ、ついに私の出番だ。レディの足取りで囲いに入る。

落ち葉の床はふかふかで、視線がぐんと高くなった。これから落ち葉をふみつけて、かさをへらすのだ。

私は優雅にスカートのすそをつまみあげた。これがしたくて、わざわざスカートをはいてきたのである。

「ふみ ふみ ふみ♪」

右・左・右と、内股気味に足踏みする。

「ブドウと落ち葉踏みは、乙女の仕事よね。ふみ ふみ ふみ♪」

「おらおらネエチャン、もっと脚見せろや」

「お兄さんったら、スキねぇ。サービスよ。ふみ ふみ ふみ♪」

しばらくそうして落ち葉が沈むと、私は囲いから出た。

夫がさらに落ち葉と水、米ぬかを入れ、また私が囲いに入って、「ふみ ふみ ふみ♪」とやる。

これを繰り返し、仕込みは終わり。あとは微生物の働きを祈るばかりだ。


屋根がないので、ビニールシートで覆って帰りました。涙

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シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

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kthkr0214 |金田 妙|シロウト夫婦のズボラ菜園記 ふみ ふみ ふみ♪ 可愛い♡ https://t.co/AUKd6IHPrg 4年弱前 replyretweetfavorite