聴いてくれる人に対して愛情を送りたい
—— 米津玄師さんの新刊『かいじゅうずかん』には「love」という曲が収録されています。かいじゅうのイラストの数々は、米津さん自身も含め、いわゆる平均や標準のようなものからはみ出してしまう人間の個性、つまりいびつな姿を描いたものだと思うんです。それを集めた一冊のテーマソングとして「愛」というものを主題にした曲を作ったのはなぜでしょうか。
米津 覚えてないんですよ。1日、2日くらいで作ったんで、気が付いたらできあがっていた感じです。
「love」は、もともと『かいじゅうずかん』のための曲を作ろうと思って作り始めた曲じゃないんですね。その前にもう一曲作っていた曲があって、それはもっとハッピーな曲だったんです。でも、『かいじゅうずかん』のために作る音楽としては何か違うと思って、それをボツにして。そこからあっという間に作りました。
—— 曲調はポップですが、歌詞は決してハッピーなものではないですよね。
繰り返し僕らは海へ叫ぶ
暗い孤独を歩いて行く
永遠に生きられないとしても
いつかは嫌われたとしても
誰も悪くなかったとしても
痛みが消えないんだとしても
どんなに遠く離れたとしても
ずっと深く傷ついたとしても
もう二度と会えないんだとしても
思い出せなくなってしまっても
「love」より
米津 結局、暗闇を描いても、愛に行き着かざるを得ないんですよね。やっぱり、生きていく上で一番大事なものは愛情だと思うんです。自分が個性との戦い、自意識との戦いをしてきたのも、なぜ戦うのか?と言ったら、誰かに愛されたいからで。愛されて、社会的な動物として生きていくために戦うわけなんです。
そういう意味で言うと、自分はいろんな曲を作りましたけど、最終的には愛についてしか歌ってないんじゃないかという気もする。その中でも、「love」はひたすら剥き出しの曲だと思います。根本にある「愛されたい」「愛したい」という感覚に何も装飾していない。ただひたすら愛でしかない。
—— 歌詞には「永遠に生きられないとしても」「いつかは嫌われたとしても」のように、「◯◯としても」という表現が繰り返し出てきます。これは、いろんな前提、社会性や相手との関係性のようなものをすべて取っ払った上での、根源的な愛にたどり着くような表現だと思うんです。
米津 そうですね。そういう愛情のようなものがないと生きていくことができない。個性じゃ生きていけないんですよ。個性だけあっても、それが愛情を阻害するなら克服しなきゃいけないんです。
—— 米津さんの中で、個性や自意識と戦わなければいけないという意識が強いのはなぜなんでしょうか?
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