ある日、「描けるかもしれない」と思った—vol.1

「妹が死んだ。名前は春。まだ19歳だった」——妹・春の死によって移り変わっていく姉・夏美と、妹の婚約者・冬吾の関係を緻密に描き、単行本が刊行されるや否や話題騒然となったマンガ『春の呪い』。最終巻となる2巻の刊行を記念して、作者・小西明日翔さんに、作品が生まれた経緯やラストを描き終えての思いなどをお聞きしました。全3回でお届けします。

最初は小説として書き始めた

— このたびは『春の呪い』2巻刊行おめでとうございます。そして「このマンガがすごい!」オンナ編2位の受賞もおめでとうございます!

小西明日翔(以下、小西) ありがとうございます。デビューしてマンガ家として単行本を出せたということだけでもうれしいのに、そうした賞までいただけて驚いています。

— 『春の呪い』は、病気で妹・春を失った夏美が、なぜか妹の婚約者である冬吾と交際をすることになり、彼との交流を通じて春の死と向き合っていくというストーリーになっています。今回の2巻が最終巻ですが、ラストを描き上げてみていかがでしょうか。

春の呪い 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)
春の呪い 2 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

かけがえのない最愛の妹・春を喪った夏美は、妹の婚約者だった柊冬吾から交際を持ちかけられる。春の心を奪った彼に対して複雑な思いを抱いている夏美は、「春と二人で行った場所に自分を連れて行く」ことを条件に、彼の申し出を受けることにするが……。

小西 まず、自分が物語を終わらせられると思っていなかったんですよ。

— えっ?

小西 『春の呪い』は、もともと過去に個人サイトで発表していた小説だったのですが、ラストまでは書き上げていませんでした。これまでに小説・マンガあわせて100本ほどのお話を考えてきましたが、完結させられたのは1つしかなくて。途中まで書いて、その先も頭のなかに浮かんではいるんだけど、形にはしていないというものが多かったんです。
 連載するにあたって、開始前にはじめてラストまでのプロットをつくりましたが、描き上げてみてようやく、「ちゃんと終わりまで描けた……」という感慨がわいてきました。

デビューを決めたのは4月1日だった

— いま、「小説・マンガあわせて」とおっしゃいましたが、小説も書かれるんですか?

小西 もともと個人で創作活動を始めたときは、ずっと小説を書いていました。ただ、ある作品にハマって二次創作を始めたときに、「イラストでも表現したい」と思ってイラストも発表し始めたんです。それからだんだんマンガにシフトしていったという経緯ですね。

— では、最初はマンガ家を目指していたわけではなかったんですね。

小西 はい。子供の頃から絵を習っていたので、絵を描くことにはなじんでいたんですが、「マンガ家になろう」という発想は一切ありませんでした。なので、こうしてデビューしている、というのも自分にとってはかなり予想外のことなんです。

一迅社担当編集(以下、担当) 小西先生の作品をはじめて拝見したときは「なんでこんなに描ける方がデビューしてないんだろう!」と驚いたんですよ。
 最初にお声がけしたのは、もう4年前になると思いますね。最初の2年は、ずっと「やりません」とおっしゃっていて。

小西 そうなんです。断っていたんです。「いやいや、私には無理でしょう」と。でも、2年前にフッと「描けるかもしれない」という気持ちがわいてきました。何かきっかけがあったとかではないのですが……。

担当 私に「描いてみようと思います」と連絡をくださったのがちょうど4月1日、つまりエイプリルフールだったので、「これ冗談です」ってオチをつけられたらどうしようとビクビクしていました(笑)。それで、すごく印象的に日付を覚えています。

— デビューしようと決めたのも「春」だったんですね。

夏美の「春に対する感情」の変化

— 連載をするにあたって、100本のお話のなかから『春の呪い』を選んだ理由は何だったのでしょうか。

小西 とりあえずデビューしてみようとは決めたものの、まだ自信がなく、ひとまず短い連載をやりとげてみて、自分がマンガ家としてやっていけるか考えたいと思ったんです。それで、過去に考えた話のなかでも短めで、適していると思ったものをいくつか挙げたなかに『春の呪い』があったんです。
 あ、今日は初期にプロットを練っていたときの覚書きを持ってきました。

— 貴重な資料をありがとうございます! 「妹が死んだ。名前は春。まだ19歳だった」というのは、1話冒頭の印象的なモノローグですが、もうこのときには決まっていたんですね。個人サイトで発表されていたときと、実際に連載した『春の呪い』ではどれくらい違うのでしょうか。

小西 もともとは小説として考えていた話なので、今よりだいぶ暗かったなと思います。連載してみて実感したんですが、マンガって、筋としてはシリアスな内容であっても、適度にコミカルな小ネタや描写を入れないと間が持たないんですよ。
 そして何より、描いている自分がお話やキャラクターと向き合っている時間がものすごく長いので、ずーっと暗い話が続くと、自分の気が滅入ってくるんだと知りました(笑)。シリアスなマンガを何年も描き続けている人のメンタルはすごいと思います……。

— 夏美のキャラなども、明るく変えていたりするんですか?

小西 夏美はもとからああいった子でしたね。私、苦労しているけれど明るく生きている主人公、というのが好きなんです。ただ、キャラとして際立たせるうえで、天然な成分を強調したりはしました。

担当 連載開始のときに「松岡修造さんっぽく……」と先生がおっしゃっていたのを覚えています(笑)。

— 2巻で「春の目から見た夏美」が描かれるようになると、1巻ではまだ見えていなかった一面も見えてきますね。

小西 夏美のような人って、たまに周りで見かけると思うんです。仕事にがっつり打ち込んで、家族のためにも一生懸命で、自分本位なところがない。「自分の時間は一体いつとってるの?」「すべてやりきったらこの人どうなっちゃうんだろう」って心配になる感じの人。夏美については一貫して、そういうイメージです。 個人サイトのときと大きく変わったのは、「春に対する感情」のところですかね。


『春の呪い』1巻より

— 初期は、春を好きという設定ではなかったんでしょうか?

小西 逆ですね。むしろ、夏美は女性しか好きになれない子で、血のつながった妹である春を、恋愛対象として強く愛しているという設定でした。
 一方、財閥の御曹司である冬吾は、「血族婚」を繰り返してきた自分の一族を嫌悪して育った。しかし、夏美と出会って「家族を愛してしまうこともあるのか」と知り、価値観が覆されていく……というのが物語のひとつの軸だったんです。

— そうだったんですね。そちらのストーリーも読んでみたかったです。

小西 ありがとうございます。連載のためにいろいろと細部を検討するなかで、夏美と冬吾の関係性の変化をもっと描いていきたいと思ったんです。結果として夏美の春に対する感情も当初とは違ったものになり、作品全体もだいぶ明るい内容になりました。

次回「キャラクターは『隣の家に住んでいる人たち』である」は12月30日(金)公開予定

聞き手・構成:平松梨沙

この連載について

春の呪い』インタビュー

小西明日翔

「妹が死んだ。名前は春。まだ19歳だった」——妹・春の死によって移り変わっていく姉・夏美と妹の婚約者・冬吾の関係を緻密に描き、単行本が刊行されるや否や話題騒然となったマンガ『春の呪い』。最終巻となる2巻の刊行を記念して、作者・小西明日...もっと読む

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コメント

hirarisa2017 【最近の仕事】 『春の呪い』小西明日翔さんインタビュー。全3回でたっぷり聞いてますー。 https://t.co/xjr5Nei8xu 5ヶ月前 replyretweetfavorite

suki_pome https://t.co/ibMQOIms8I 6ヶ月前 replyretweetfavorite

wasabi0209 うおお、あとは、有料登録しないと読めないのか! 6ヶ月前 replyretweetfavorite

ellymlss 買う。読む。 6ヶ月前 replyretweetfavorite