けんちゃんより先生へ「メチャクチャかわいいですよ♡もしよかったらでんわをしてね」

“夫のちんぽが入らない”衝撃の実話――交際してから約20年、「入らない」女性がこれまでの自分と向き合い、ドライかつユーモア溢れる筆致で綴ったこだまさんの“愛と堕落”の半生。その書籍化を記念して、その外伝がcakesで特別連載です。
子供の頃から憧れていた教職に就くも、精神を病み離職したこだまさん。引きこもりを経て、最終的に辿り着いたのはとある障害者施設の職員でした。そこに入所する少年けんちゃんと心を通わせるうち、彼の独創的な世界観に心を奪われるようになります。そんな、けんちゃんと過ごしたかけがえのない日々を綴ります。

 私は施設にいるダウン症の子供たちから仲間だと思われている。

 施設内で一番人気なのはM田先生。私の同期だ。おしゃべり好きで世話好き。冗談もぽんぽん飛び出す。そんな彼女のまわりには常に子供たちが集まり、会話をするのも順番待ちだ。
 その列に並ぶくらいなら、てっとり早くこっちでいいや、という子が私のところに来て、「ゴミどこに捨てればいいですか」などと聞く。
 私は「おしゃべり」ではなく「用事」を担当している。幸いガラ空きなので即対応できる。私が話しかけてもらえるのはそういった雑用のときくらいだ。

 だが、どういうわけか勤務初日からダウン症の子供たちだけはカルガモのように私の後をぞろぞろとついてきた。ぷにぷにした体を上下左右に大きく揺らしながら。

 その一座の中にホワイトボードとサインペンを携帯する男子がいた。うまく喋れないので、伝えたいことがあるとホワイトボードをくるっと裏返してすらすらと用件を綴り、話しかけてくるのだ。

 その動作は私にとって実に馴染み深いものだった。
 大喜利だ、この施設に大喜利戦士がいるぞと思った。
 私は精神を病んで教員を辞め、家に引きこもっていた十数年前にインターネット大喜利というものにハマり、来る日も来る日も投稿ばかりしていた。彼はその大喜利の大会に出てくる人たちと同じ身のこなしでフリップの文字を掲げている。

 サラサラサラ(要望)、クルッ、バーン(提示)。

 その一切無駄のない一連の動きは見事だった。私は一瞬で彼に興味を持った。それが、けんちゃんとの出会いである。


 ある日けんちゃんは、たっぷり一時間かけて私の似顔絵を描いてくれた。

 まず、お手紙をくれた。 普段はホワイトボードなのに、いつになくかしこまっている。

 けんちゃん、積極的だ。ちなみにこの番号は家電なので、お母さんに繋がる。「メチャクチャかわいい」なんて生まれて初めて言われたので、年甲斐もなく舞い上がった。

 その反応を確かめた彼は「で、では、こちらを・・・・・・」と丁重に似顔絵を差し出した。私はそれをどきどきしながら開いた。

 うん、ゴリラだな。完全にゴリラだ。

 このとき思い出した。以前けんちゃんが石破茂に似た女子を「め、めっちゃ可愛い・・・・・・」と言い、仲間たちも「か、わ、いい・・・・・・か、わ、いい・・・・・・」と絶賛していたことを。そういうことか。そういう複雑な美意識か。

 私は胸を反らしドラミングしながら帰宅した。

次回「けんちゃん、ドリフを復活させる『実は、テレビ欄を作っているのは、ぼ、僕なんだ』」は1/6更新予定

“夫のちんぽが入らない”衝撃の実話――交際してから約20年、「入らない」女性がこれまでの自分と向き合い、ドライかつユーモア溢れる筆致で綴ったこだまさんの“愛と堕落”の半生。

この連載について

夫のちんぽ外伝『けんちゃんのいる世界』

こだま

“夫のちんぽが入らない”衝撃の実話――交際してから約20年、「入らない」女性がこれまでの自分と向き合い、ドライかつユーモア溢れる筆致で綴ったこだまさんの“愛と堕落”の半生。その書籍化を記念して、その外伝がcakesで特別連載です。 ...もっと読む

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コメント

u5u “その動作は私にとって実に馴染み深いものだった。 大喜利だ、この施設に大喜利戦士がいるぞと思った” 約3年前 replyretweetfavorite

kabothomas この人かぁ。「夫のちんぽが入らない」って本書いたの。このタイトルが受け入れられる程度には、この国はまだ自由なんだなぁ。 こだま @eshi_ko |夫のちんぽ外伝『 約3年前 replyretweetfavorite

aoyamayuka_ri やった!こだまさんの新連載だ。おもしろい、と言いきっていいのかと思うけどきっといいんだ。面白いんだよ、こだまさんは。新刊も楽しみだなあ。 https://t.co/CRdhmcZntR 約3年前 replyretweetfavorite