お義父さんから貰った12枚のレコード
いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
バーには結婚前の交際中の男女がよく来店します。渋谷で映画やライブをみた帰りに軽くbar bossaで飲んでこうかなって男女や、土曜日に渋谷で買い物をして彼の家に向かう前にちょっとbar bossaで飲もうかなって感じの男女です。
そんな彼らはある日、「林さん、今度僕たち結婚するんです」と仰います。バーをやっている人間としては、その瞬間が一番嬉しかったりするものです。どういうわけか、僕も彼らの恋愛劇の脇役になっているような気がして、ハッピーエンドが近づくと「良かった」なんて思います。
その後、そのカップルはしばらくバーには来店しません。でも、数年後のある日、「お久しぶりです。今日は子供を実家に預けてきたんで」なんて感じでひょっこりと来店してくれます。
先日久しぶりに来店された藤原さんもそんな一人でした。彼は僕がレコードを裏返すのを見ながら「林さん、レコード好きなんですね」と声をかけてきました。
「ええまあ。僕の唯一の趣味なんです。藤原さん、レコードに興味があるんですか?」
「いえ。僕ではなくて、彼女のお父さんがすごいコレクターなんです。彼女の家にはお父さん専用のオーディオ部屋があって、壁一面に1万枚くらいのレコードが並んでるんです」
「1万枚ってすごいですね。奥様の実家にはよく行かれるんですか?」
「ええ。結婚前には2ヶ月に一回、彼女の家にお食事を誘われたんです。彼女の家族はみんな料理をするのが大好きで、お父さんとお母さんと彼女と彼女の妹が4人でわいわい言いながら、夕食の用意をしていました。
料理は毎回、季節を感じるものというテーマが決まっていて、夏には夏野菜をたっぷりつかったもの、冬にはジビエにこだわって、とにかく本格的だったんです。
食事の時はとにかくみんなたくさん飲みました。ビールから始まって白ワイン赤ワイン、お父さんもお母さんも彼女も彼女の妹もとにかくみんな飲んで、たくさんの話を僕たちは楽しみました」
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。