ここは東京、西新宿。今日はドブ板メディカル株式会社、営業企画部の忘年会です。
馬路出課長「では、かんぱーい!」
と乾杯の音頭を取るのは、営業企画部の馬路出課長です。
馬路出課長「いやー今年も色々あったけど、何とか予算目標額も達成できたから万々歳だよ。河合さんもうちに出向してきてしばらく経つけど、どう? もう慣れた?」
課長が、提携先の外資系企業、ウンタラサイエンティフィック株式会社からの出向者・河合さんの横に、どかっと座ってそう言いました。
河合さん「いえ、全然慣れませんね」
クールな美女、河合さんは氷点下の表情でそう返します。
馬路出課長「そ、そう……。ま、まあ今日は飲んで」
河合さん「私、お酒飲めないんですよ」
馬路出課長「えっ」
二人の間に、ものすごい冷たい烈風が吹いたのを馬路出課長は感じました。
馬路出課長「本当に? 飲まないんじゃなくて、飲めないの」
河合さん「ええ。一滴も飲めません」
馬路出課長「そ、そっか……」
重たい沈黙が二人の間を包みます。
陽太「か、課長! ぼ、僕が河合さんの代わりに飲みますんで!」
空気を読んでか、二人の間に割って入ったのは、三年目営業の出来内陽太(デキナイヨウタ)です。
馬路出課長「そ、そうか! 陽太! のめのめ! 今年はお前も頑張ったよ!」
陽太「ありがとうございまーす!」
と、カチンとビールジョッキを鳴らす二人を眺めながら、河合さんは思いました。
飲みにケーション
クソみてぇな文化だな
河合さん「こんな文化滅びればいい……」
ずんずん先生「物騒なこと言ってるわね」
河合さん「ずんずん先生!?」
河合さんは驚いて思わず飛び上がりそうになりました。
河合さん「ずんずん先生、どうしてこの飲み会に? というか誰が誘ったの?」
ずんずん先生「何、その大学の飲み会の『あいつのこと誰が誘ったんだよ』的なノリは」
河合さん「そんなつもりで言ったんじゃありません。勝手にトラウマを発動させないでください」
ずんずん先生「陽太が誘ってくれたのよ」
そう言いながらずんずん先生は、くいっと焼酎のグラスをあおりました。 ずんずん先生はメンヘラ産業医で、社会人がかかるという謎の奇病・社会人病を専門としています。なぜかドブ板メディカルに常駐していました。
ずんずん先生「どうせ、『飲みにケーションなんて文化滅んでしまえ』とか考えていたんでしょ」
河合さん「そ……そんなこと考えてません」
図星をさされ、河合さんはドキリとしました。
河合さん「ただ、私は飲めないのに飲み会に参加しなければいけないのがよくわからないだけです」
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