天才研究者の孤独は、幼少期のある事件がきっかけだった

天才研究者・苅安青磁には双子の妹がいた。幼少期、とある事故で入院することになった兄妹。それをきっかけにある事実が判明する。さかき漣の単著デビュー作『エクサスケールの少女』(徳間書店)の発売を記念して、その一部をcakesに特別掲載!

第一章 本当の名も知らない頃
—1

「ゆうやーけ、こやけーの、あかとーんぼー」
 少女の歌う声が聞こえる。
 夕闇の迫る公園。どの子供も、年長の者に促され家路についたり親が迎えに来たりなどして、既に姿を消している。そんな人気少ない公園に、居残る小さな人影が二つ。落日の残滓ざんしが、未だここに遊ぶ二人の子の姿を、紅く浮かび上がらせている。
萌黄もえぎ! 次はあれに乗ろう」
「うん、お兄ちゃん」
 年頃は同じくらい、外見もよく似た男児と女児だ。ブランコを降りた二人は、目当ての回旋塔を目指し走り出した。
 もう数分もすれば太陽も山の端へ沈み切るだろう。そして紅から藍に変わった地上、街灯の作る白い輪のもとに母親の迎えを待つのが、この兄妹の日常だった。
 まだ齢五つ、幼い二人では、いくら身体を伸ばしたところで回旋塔の手すりにまでは届かない。 男児は慣れた様子で古タイヤを引きずり寄せ、足場にした。公園の片隅に、不法投棄されたタイヤは幾らでも転がっていたのだ。
 ふたりは、こぞって古タイヤを台にし手すりにしがみつく。男児が足でタイヤを力いっぱい蹴ると、遊具は回り出した。古い金属がギイギイと軋音あつおんを立てている。回るごとに、遊具のそこかしこから錆びた赤い塊が無数に落とされた。兄がうまく身体を振れば、さらに回旋塔は派手な動きをし、それが妹を喜ばせた。
 と、遊具がいつになく大きく揺れた。ひときわ激しく軋んだ後、恐ろしい音が辺りに響き渡った。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

人工知能の行く末は、ユートピアか、それとも……?

この連載について

初回を読む
エクサスケールの少女

さかき漣

30年後にやってくる人工知能が人間を超える“シンギュラリティ"(技術的特異点)。その前段階としてこの10年以内に起こるのが「エクサスケールの衝撃」だ。スパコンの計算処理能力によって、医療・物理・宇宙工学などに革命を起こし、人間生活を大...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

rensakaki2016 #エクサ少女 の一部が試し読みできます。 第一章 『本当の名も知らない頃 』 ——1—— 「」 #さかき漣 # 1年以上前 replyretweetfavorite

rensakaki2016 拙著『 #エクサスケールの少女 』の序章と第一章が、試し読みできます。 #さかき漣 #エクサ少女 第一章 本当の名も知らない頃 ——1—— 『』 https://t.co/cFUfwsCFFs 1年以上前 replyretweetfavorite

rensakaki2016 拙著『 #エクサスケールの少女 』の序章と第一章が、試し読みできます。 #さかき漣 #エクサ少女 第一章 本当の名も知らない頃 ——1—— 『』 https://t.co/cFUfwsCFFs 1年以上前 replyretweetfavorite

rensakaki2016 『#エクサスケールの少女』cakes連載、三回目upです!  どうぞ宜しくお願い致します✨ https://t.co/cFUfwsl4NU 3年以上前 replyretweetfavorite