疑心暗鬼

選択

基準は明石家さんまさん。
さんまさんと比べられ、叱咤されながら続く、レギュラー新番組「どっちもどっち博多っ子倶楽部」のシミュレーション。
博多芸人たちの運命を変えた「どっちもどっち博多っ子倶楽部」のメインMCに選ばれたター坊は、特に徹底的にダメ出しされ続けた。凄惨なほどに……。

 さんまさんは、こうだった。

 さんまさんなら、こうしていた。

 なんでそれが、わからへんねん?

 なんで、さんまさんみたいにできへんねん?

 なんで、さんまさんみたいになろうと思わへんねん?

 そんな奴が、売れるかボケ!

 何も出来なかった僕たちは何かにつけて、さんまさんを引き合いに出されては怒鳴られた。
 素人に毛が生えたような僕たちを一日も早く一人前の芸人にするために、吉田さんも無理を承知で叱咤激励していたのだろう。
 そんな親心も今ならわかる。
 しかし、僕たちはさんまさんと比べられる度に、何も言い返せず、ただただ、自信や夢を削り取られるばかりだった。

 そりゃあ、そうでしょうけど。

 誰と比べているんですか?

 言われなくても、わかってますよ。

 僕たちがさんまさんに、なれるわけがないでしょう。

 博多温泉劇場も始まり、イベントも軌道に乗ってきたとはいえ、芸人としては、ようやく首が据わってきたぐらいの僕たち。
 そんな僕たちに吉田さんから課せられる「目標・明石家さんま」というスローガンは、申し訳ないけれど、重荷でしかない。
 文字通り、さんまさんを目指すなんて、僕たちには荷が重すぎたのだ。

 吉本で芸人なんて、自分には無理なんじゃないか。

 さんまさんになんて、なれるわけがないんだし、そもそも吉本って関西の笑いなんだから、九州の僕たちには向いてないんだろう。

 やっぱり、ここじゃないような気がするなあ。

 こんな疑問を僕たち全員が共有していたけれど、今さら言っても、もうどうにもならないし、もう引き返すわけにもいかないんだから、なんとなく全員で、そこは見て見ぬフリでやり過ごしていた。

 吉本を疑うこと。 吉田さんを疑うこと。 そして、これからの将来を疑うこと。

 いつの間にか、それは僕たちのタブーになっていた。

 そこに正面から、ター坊は向き合っていたのだ。

 福岡吉本にいて、俺はどうなるんだ。ここにいて、結局、俺は何者になれるんだ。ここが本当に、人生を賭ける場所なのか?

 そんな想いが地元ネタを封印させ、吉本への疑問をハッキリと口にさせたのだろう。

 そんな中、決まったのが「どっちもどっち博多っ子倶楽部」である。
 これは当時、笑っていいとも!で人気を博していた「ウェルトーク」というコーナーがモチーフの、たとえばイヌ派とネコ派に分かれて、その魅力を両派がプレゼン合戦するような、そんな討論バラエティーだった。

 しかし当時の僕たちに、何の練習もなく討論バラエティーなんて出来るわけがない。
 だから放送のひと月ほど前から、毎晩のように全員が集められ、事務所でシミュレーションを繰り返していたのだが。

 そこで、番組のメインMCに選ばれたター坊は、僕たち以上に、いや、怒られ役の僕でも経験がないぐらいに、吉田さんからコテンパンに怒られた。
 それはもう凄惨なぐらいの怒られっぷりで、全人格を否定するかのような勢いで、ター坊は吉田さんや番組スタッフさんに責められたのだ。

 毎日毎日、シミュレーションを重ねる度に、さんまさんなら、さんまさんならと、ター坊は徹底的にダメ出しをされ続けた。

 福岡吉本初のレギュラー番組でメインMCに指名され、やる気にみなぎっていたター坊だったが、日を追うにつれ、その表情はあからさまに精悍さを欠き、その落ち込みぶりは端から見ているだけの僕も、言い忘れていたが、番組には出さないけれど、シミュレーションには雑用係としての見学を命じられ、毎晩事務所に呼び出されていた部外者の僕も、ちょっと見ていられないほどツラかった。

 ただ、ター坊の肩を持てば、これは初回放送のお題がキツすぎたのだ。
 記念すべき第一回目に、なぜこのお題が選ばれたのか。
 当時から僕は納得できなかったし、未だに僕は理解できない。
 今さら責任の所在を追求するつもりはないが、こんなお題で行けると思った方も悪かったんじゃないかと、僕はここに抗議しておく。


 第一回目の討論テーマは、もう決まっていた。

 女性に履いてもらうなら、

「プリーツスカート」と「フレアスカート」

 さあ、どっち?


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疑心暗鬼

博多大吉

「どうして芸人になろうと思ったんですか?」一番多く投げかけられたこの質問に、いつも心の中で聞き返す。「どうしてみんな、芸人になろうと思わなかったんですか?」ーー時はバブルまっただ中。福岡の片隅で、時代の高揚感に背中を押された少年が抱い...もっと読む

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コメント

toronei 明石家さんま担当マネージャーが「さんまさんはこうだった」というの押し付けて、地方支社の若手をダメにした話って、名古屋でもあったよな。 3年弱前 replyretweetfavorite

sizukanarudon 博多大吉 https://t.co/poVPPCE4q9 どっちもどっち博多っ子倶楽部 明石家さんまさんは、こうだった さんまさんなら、こうしていた なんでそれが、わからへんねん? なんで、さんまさんみたいにできへんねん? なんで、さんまさんみたいになろうと思わへんねん? 3年弱前 replyretweetfavorite

susie113 ター坊ー!(は、カンニング竹山さんの事です) ⇒  3年弱前 replyretweetfavorite

takadanobuhiko すごい面白い。 3年弱前 replyretweetfavorite