「食の安全」に対する変化
農薬や化学肥料をつかわないオーガニックな無農薬有機野菜は、かつては消費者運動の象徴のような面がありました。
戦後史をふりかえってみると、1960年代ぐらいまでは、オーガニックな食を求める人はごく一部でした。それどころか、化学的なもののほうがハイテクでカッコよかった。いまでは想像もつきませんが、そういうものは古い日本の土着的な農村文化に対置されるものとして、もてはやされていたのです。
たとえば1966年の大手日用品メーカーのテレビCMを見ると、食器を洗うための中性洗剤でりんごやレモン、きゅうりなどの野菜果物を洗っているシーンが出てきます。いま見るとギョッとしますが、当時はそれが「未来っぽくて進歩的」な感じに映ったのでしょう。同じ時期の食品メーカーのCMでは、うま味調味料を、食卓の料理にドバドバかけている映像がつかわれています。昔ながらの昆布やかつおのだしよりも、化学の力で味を加える方がカッコよかったのですね。そういえばインスタントラーメンや、レトルトパウチに入ったカレーも、当時はとても未来的なイメージでした。食品添加物もあたりまえで、ウィンナーといえば真っ赤に着色されている商品がごく普通だったのです。
しかし1970年代になると公害問題や環境問題がクローズアップされるようになり、「食の安全」を求める運動が本格的に高まってくるようになります。こまかくは記しませんが、70年代は着色剤や漂白剤の追放運動、80年代は食品添加物の規制緩和反対運動、そして90年代の遺伝子組み換え食品、ダイオキシン健康被害問題などが、時代ごとの大きなトピックです。
こうした消費者運動の取り組みは大きな成果をあげ、食の安全はたいへん前進しました。
しかし一方で、「やりすぎ」になってしまった面もあります。それは、過激な「オーガニック原理主義」のような考えかたが蔓延するようになってしまったことです。
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