部員みんながピアノを囲むように二列になって並んでいる。
アタシたちはその端っこに混ぜてもらっていた。
「じゃあ、歌うときの姿勢からだね」
と、副部長の瑠華先輩がアタシたちの前に立った。新入生のアタシ、めぐ、蓮を指導してくれることになったのだ。
「両足を肩幅くらいに広げて、均等に体重をかける。重心は足の親指のつけ根にくるようにね。そしてすこし胸を張る感じにして」
「こんな感じ?」とアタシ。
「そうそう、鈴とめぐはそれでいいよ。蓮はちょっと猫背ぎみかな」
瑠華先輩は、蓮のおでこに手をあてて姿勢を直してやった。
「常にこの姿勢を意識すること」
はい、と返事した蓮の顔はすこし赤くなっている。まあ、瑠華先輩みたいに大人っぽい女の人に触られたら、蓮なんてイチコロなんだろうなと思う。
「大切なのはリラックスすること。声は体で共鳴させるものだからね」
はい、とアタシたち。
なんだか高校の部活っぽくていい感じ。
「じゃあ、腹筋!」
と、号令をかけた芽依子先生が手を叩く。
すると、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、と部員みんながお腹に手を当てて、変な呼吸をしはじめた。
なになに、何をやってるのみんな?
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