牧村朝子
理解できる範囲に押し込めて「理解した」って言うな
友達になりたいと相手と、必ず友達になれるというわけではないのかもしれません。牧村さんも子どもの頃、友達になりそびれてしまった相手がいるそうです。いつも「……うん。」としか言わないあやかちゃんと仲良くなるきっかけを作ろうとした時、それを隔てたのは「子どものことを理解している」という大人だったそうです。「他人を理解する」とは一体どのようなことなのでしょうか。
「子どもはわかりやすいねぇ~」
そう言う大人が、本当に子どものことを理解していたことなんか、ない。
子どもだったころ、私は、あやかちゃんと友達になりたかった。あやかちゃんは静かな子だった。細くて、弱くて、ちいさくて、いつも困ったような顔をしていた。
だいたい、「……うん。」としか言わなかった。だから、あやかちゃんの周りには、あやかちゃんに「……うん。」と言ってもらいたい用事のある子ばかりが集まった。
「そのお菓子ちょうだいよ」
「……うん。」
「おもちゃ貸してよ」
「……うん。」
あやかちゃんの手には、いつもなんにも残らなかった。
そうして全部をあげてしまって、あとはぽつんと立っている、細くて、弱くて、小さくて、「……うん。」しか言わないあやかちゃん。彼女のことをまわりの大人は、やっきになって守ろうとした。しだいに、「あやかちゃんに近づく子どもはみんな、あやかちゃんから何か奪いたい子なのだ」と決めつける大人も出てきた。
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この連載について
牧村朝子
性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む
著者プロフィール
タレント、文筆家。2010年、ミス日本ファイナリスト選出を機に芸能界デビュー。2012年渡仏、フランスやアメリカでの取材を重ねる。2017年独立、現在は日本を拠点とし、執筆・メディア出演・講演を続けている。夢は「幸せそうな女の子カップルに"レズビアンって何?"って言われること」。出演『ハートネットTV』(NHK総合)ほか、著書『百合のリアル』(星海社新書/2017年、小学館より増補版刊行)『ハッピーエンドに殺されない』(青弓社/2017年)ほか。愛称は「まきむぅ」。