「今ハマっている漫画は?」
「好きな映画監督は?」
「影響を受けたアーティストは?」
これらの質問が私はことごとく苦手だ。
「知らないので……」と逃げてみたり、困惑して黙り込んだり。「相手は話のきっかけを探っているだけ」と思える場合でも、びくびくしてしまう。作品名は頭に浮かびながらも、それが他人にどう受け止められるのか気になって、冷静に答えられない。挙げる名前によって、私自身のセンスが値踏みされてしまう。その査定が恐ろしいのだ。一部の文化系の人々を、私は憧れと共に激しく恐れている。
「そう気負わずに、めくるめく作品世界を楽しんでみたらよいのでは?」と担当編集者のN氏に勧められ、ある場所を訪ねることに。文化系のオアシス、TSUTAYAである。
「絶対に観るべき!」を突きつけないで
そもそも、なぜ文化系コンプレックスをこじらせてしまったのか。そう考えて、私は八年前に浴びせられたある一言を思い起こした。
札幌で過ごした高校時代、私は詩の創作と、美術部の活動に明け暮れていた。詩の新人賞を受け、詩を書く人に認知されはじめた高校2年の頃、ネットで同い年の男の子と知り合った。自分も詩を書いている、という彼は、メールでこう尋ねてきた。
「自分はジャズや洋楽をよく聴くのですが、文月さんはどんな音楽が好きですか?」
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