失われた「ヒットの方程式」
では、その半面で失われたものは何だったのだろうか?
2013年1月、『週刊ダイヤモンド』が「誰が音楽を殺したか?─Who’s killing Music?」という特集を組んでいる。「音楽産業は崩壊するか」「音楽家は生き残れるか」と、なかなかに刺激的な見出しが乱発される記事の中に、こんな一節がある。
「時代を彩るような新人がなかなか出てこない」
業界関係者は一致してこう話す。AKB48らアイドルは社会現象となったが、音楽にだけ携わるアーティストでは、大ヒットを連発する人材はなかなか出てこない。
数年前までは純粋にロックやダンスを目指す本格ミュージシャンでもアルバムが10万枚単位で売れることは多々あった。だが、「今は数万枚でよいほう」と先の音楽事務所の幹部は話す。特に中堅ランクの落ち込みは顕著だ。 (『週刊ダイヤモンド』2013年1月12日号)
この記事では若手のアーティストがヒットを飛ばすことが難しくなった理由を二つ挙げている。
一つは、レコード会社が新人に投資する余裕がなくなったこと。そしてもう一つは、かつて有効だったプロモーション戦略が通用しなくなったことだ。
1990年代は新人がドラマのテーマソングでタイアップし、音楽番組に出演すれば「次の日には2、3万枚レベルが、60万枚とかに跳ね上がった」(音楽事務所幹部)が、昨年、同じ戦略を取った若手バンドは「ほとんどチャートが動かない」(同)ありさまだった。(前掲誌)
この記述からは、90年代の音楽産業がどんな「ヒットの方程式」を用い、それがどんなビジネスとなっていたのかが、逆によくわかる。
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