エンタメ界には「空席」がある。—コルク×noteマンガコンテスト

作家のエージェント業を行う会社・コルクと、クリエイターのプラットフォーム・note。両者が協力し、新たなクリエイターを発掘する「コルク×noteマンガコンテスト」の第二回が開催されます。『嫌われる勇気』『インベスターZ』の担当編集であるコルクの編集者・柿内芳文さんと、cakesの加藤が対談をしました。数々のヒット作を手がけてきた柿内さんが考える、今の時代に新人クリエイターが描くべきマンガとは? コンテストの指針とあわせて、お話しいただきました。

左:note・加藤貞顕 右:コルク・柿内芳文

クリエイターには「登るべき山」がある

加藤貞顕(以下、加藤) 昨年に引き続き、今年もnoteを使ったマンガのコンテストを、コルクさんとやることになりました。ということで、今日はコルクの編集者であり、今回のコンテストの責任者でもある柿内さんに、いろいろ話を伺っていきます。

柿内芳文(以下、柿内) はい。よろしくおねがいします。

加藤 新人クリエイターを発掘するために始まったこのコンテストですが、すでに第一回の受賞者でいうと、いわきりなおとさん、つきはなこさん、仲曽良ハミさんのように、活躍しているひとが出てきてますね。

柿内 そうですね。作品の単行本化が決定したり、ウェブ連載をしたりと、受賞者のみなさんと、コルクの編集者と二人三脚でがんばっています。第一回は新たな才能あるクリエイターと出会うきっかけになりました。

加藤 そして、第二回「コルク×noteマンガコンテスト」が始まるわけですが、今回はどうしましょうか?

柿内 今回は、コンセプトを、もうちょっと絞り込もうと思っています。

加藤 というと?

柿内 前回はとくにテーマを指定せずに、幅広く応募作を集めました。それはそれで面白かったのですが、今回は作品の方向性を明確にして募集したいのです。

加藤 なるほど。それもおもしろそうです。どんなテーマにしますか?

柿内 ずばり、「あなたが考える王道マンガを、1話完結で描いてください」。

加藤 おお。

柿内 王道、これが今回の応募テーマです。枚数制限などは特にありません。

加藤 そ、それはもしかして、友情、努力、勝利、みたいなやつですか?

柿内 それは少年ジャンプの三大テーマですよね。それもあるけど、それだけじゃないと思います。あくまでも、「あなたが考える」王道。それを提示してほしい。

加藤 なるほど。かならずしもジャンプっぽくしなくてもいいのか。どうして今回、テーマを王道マンガに決めたか、もうちょっとくわしく伺えますか?

エンタメのど真ん中にある「空席」

柿内 それはですね。大きなきっかけは「君の名は。」を観て、衝撃を受けたからなんです。

加藤 ぼくも見ましたが、「君の名は。」はたしかにすごいですよね。興行収入もすごいことになっています。

柿内 ぼくは、あれを観て「どっひゃー、すげえ!」と思いました。ど真ん中じゃないですか。ど真ん中のエンターテイメントに、すべての才能と努力を注ぎこむ覚悟を感じたんです。やっぱり、こういう作品を生み出していかなければな、と再確認させられました。

加藤 そうですね。プロデューサーの川村元気さんは、我々の共通の知人ですが、はっきり言って嫉妬しましたね。ぼく、見終わってムカつきましたもん(笑)。

柿内 ぼくは同い年の友人に対するリスペクトの意味も込めて、劇場に3回観に行きました。まさに、今まで散々描かれてきたボーイミーツガールの青春モノ、つまり「恋愛」っていう、ど真ん中の王道で勝負してますよね。男女が入れ替わるなんて、ほんとひねりも何もない、中1のときに僕が毎日妄想した、誰でも考えられる王道ですよ。あ、「ひねりがない」というのはもちろん褒め言葉です(笑)。加藤さんが編集を担当した小説『マチネの終わり』も、まさにそこで挑戦していると思いますけど。

加藤 はい。『マチネの終わりに』はコルクの佐渡島さんといっしょに編集を担当したんですが、現代は難しくなってしまった恋愛物語をつくるというのがテーマなんですよね。スマートフォンのせいで、恋愛物語の大事な要素である「すれ違い」がなくなってしまった。だから、ずっと恋愛物語のヒット作が出ていない。でも、恋愛は確実に人々が好きなことだから、そこで新しい作品を生み出せたらすごいのではということを、著者の平野啓一郎さんと数年前から話していた企画なんですよね。

柿内 そうなんですよ。恋愛だけでなく、ど真ん中のベタな王道エンタメって、実は今、ぽっかりと空いてるんですよ。「君の名は。」のように、そこをしっかり本気を出して描けば、多くの人の心に届く作品になる可能性が高いのに、大真面目にベタをやるのって恥ずかしい! みたいな空気があるようにも思えます。

加藤 たしかにそうですね。ベタは勇気がいるんですよ。そもそもやり尽くされているから違いを出すのが難しいし、たとえば恋愛を描いても、まっすぐではなく、ななめから切りこむとかしてしまう。

柿内 そう。今のエンタメの世界って、「イス取りゲーム化」していると思うんです。みんながみんな、誰も座っていないイスを探していて、ポジショニングのゲームになっている。でも実は「王道」っていうすごく大きな空席が、ど真ん中にあるんですよ。そして、そのイスは何人かが座っていてもまったく問題にならないほど、大きい。100人乗っても大丈夫!

加藤 ああ、なるほど(苦笑)。

柿内 だからぼくは今こそ原点に立ち返るべきだと思うんです。最初から脇道にそれるのではなく、偏差値高くいくのではなく、国や世代を超えて多くの人が楽しめるような、王道の作品を生み出すことに、新人クリエイターはまず挑戦してみてほしいんです。

「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の中にある5つの王道

加藤 「王道」をテーマにした理由、わかりました。でも王道ってどういうものなのか、まだもやっとしているので、参考までに柿内さんが思う王道を教えていただけますか?

柿内 くり返しますが、みんながそれぞれの王道を考えるべきことだと思うので、ぼくにとっての王道をいいますね。それは「バック・トゥー・ザ・フューチャー」です。子供のころに三部作すべてを映画館で観てから、ぼくのナンバーワン映画であり続けています。ドクとマーティを思い返すだけで、楽しくなってくる作品です。

加藤 いや、あの映画はほんとうに完璧ですよね。

柿内 ぼくはもう本当に何度も見てるんですが、内容を分析すると、「タイムトラベルもの」「青春もの」「バディもの」「家族もの」「大逆転もの」という、5つの王道ジャンルがふくまれているんです。

加藤 おおう。なるほど。その5つは、それぞれのひとつのジャンルでも、いろんな傑作がありますよね。そうか、そんな王道要素が5つも詰まってるのか。

柿内 はい。まずタイムトラベルもの、青春ものっていうのはご存知の通り、世にあふれてますよね。
 で、バディものというのは、主人公と相棒がコンビの物語ですが、これも、王道なんですよね。相棒がいることで、会話が生まれて、お互いのキャラが浮き彫りになる。

加藤 たしかに主人公の高校生・マーティと科学者のドクを見てると、彼らの性格とか長所と短所がよくわかりますね。

柿内 あまり気づかれてないですが、シリーズ全体を通した、家族ものでもあるんです。マーティがタイムトラベルで昔に戻って父親と母親の恋愛を修復したり、孤独な科学者ドクにシリーズの最後の最後で家族ができたりと、全体を通して観るとハートフルな家族ものになってるんです。

加藤 たしかに。離婚が増加して家族のあり方が問われていた当時のアメリカ社会の背景などを踏まえていて、そこも受入れられた要素でしょうね。名作はいつも時代を写す鏡です。

柿内 そしてじつは、BTTFは「大逆転もの」でもある。主人公が過去に戻り、悪戦苦闘することによって、最初はイケていなかった現代のマーティの家族が、最後には超イケてる家族になるじゃないですか! 「おいビフ、ワックスは必ず二度掛けしてくれよ!」ですよ!!! 超気持ちがいい大逆転ですよね。

加藤 そうですね。今、お話を聞いていて思ったんですが……「バック・トゥー・ザ・フューチャー」と「君の名は。」の王道要素がかぶっていますよね。「君の名は。」も、タイムトラベル、バディ、青春、家族、大逆転ですね。

柿内 まさにまさに、そうなんですよ! まったく違う映画だけれど、ふくまれている王道の要素は重なってるんですよ。ただ、ぼくはただ単に「ベタな王道をパクれ」と言っているわけではないんですよ。王道へのアプローチ方法には、クリエイターの個性を思いっきり出してきてほしいですね。

加藤 そういう意図も含めて、「あなたの考える王道マンガ」というテーマ設定なんですね。

柿内 はい。人によって考える王道ジャンルや表現方法は違うと思いますから。「天空の城ラピュタ」のような冒険ストーリーかもしれないし、「巨人の星」のようなスポ根かもしないし、コミックエッセイの可能性だってある。そこは自由です。ただ、自分のなかの「王道」という山からは、逃げないでほしいですね。

編集者と作者が同じ船に乗る覚悟

加藤 ほしい作品の話を伺ったので、次は、どんなクリエイターに応募してほしいかというところをお聞きできればと思います。

柿内 はい。覚悟がある人に来てほしいです。

加藤 ちょっと、スパルタの空気を感じますね。

柿内 いや、これだけ言うと、厳しい雰囲気が出てしまうんですけど(笑)、説明します。2つの理由があるんです。

加藤 2つの理由?

柿内 はい。まずは今話してきたように、国や世代を超えた多くの人の心に届く王道の作品を生み出すことには、それなりの覚悟が必要だからです。王道をやるって実はすごく怖いことだと思うんですよ。周りから批判やツッコミをうけやすいので。豪速球を投げるのにギブスをつけるなんてベタすぎる! とかね。

加藤 大外しして、大失敗に終わる可能性もあるし。ニッチなところを攻めれば、マニアにはウケる可能性がありますが、大衆はスルーしますよね。

柿内 でも新人のクリエイターこそ、まず、そのかっこ悪いチャレンジをしなきゃいけないと思うんです。多くの人の心に届く作品を生み出していきたいなら、その気概を持ってほしいです。

加藤 もう一つの理由はなんですか?

柿内 最近、コルクではホームページを新しくすると同時に、企業理念や仕事内容をはっきり定義づけしたんです。

CORK公式サイト

柿内 まず、クリエイターのマネージメントですね。これは作品単体ではなく、作家の活動を長期的な視点で支援していくということです。
 マンガ家はどんなヒット作を生み出しても、次の作品が売れる保証はありません。だからコルクのエージェントたちは作家と二人三脚で仕事をして、その作家のことを誰よりも理解し、長期的な作家人生を見すえた選択をしていきます。

加藤 なるほど。

柿内 で、作品のマネージメントとは、一緒に作品を生み出していくだけでなく、作家の作品を新作、過去作問わずフラットに資産として活用していくこと。そして最後のファンのマネージメントは、簡単に言えばITを活用して、作家のファンコミュニティを育てていくことですね。

加藤 ああ、そこは今回のコンテストのプラットフォームであるnoteもすごく意識しているところです。これからのクリエイターは、作品をつくるだけじゃなく、ファンとつながることも仕事のひとつになると思うんですよね。だからnoteは作品を発表して売ることができる、かつファンとつながってコミュニティを作れる場所を目指しています。

柿内 そうですよね。コルクではnoteの力などを借りながら、3つのマネージメントをしっかりして、企業理念でもある、作家の生み出す作品や世界観を読者の「心に届ける」を実現していきたいと思っています。
 で、そのために、やっぱりコルクは長期の視点でクリエイターと作品づくりをしていきたいんですね。だからコルクでは「作家と同じ船に乗る」っていう表現をよくしますけど、ぼくたちと長いあいだ一緒に航海をするような覚悟がある人に来てほしいなと思います。

才能は平均ではなく偏りから生まれる

加藤 最後に応募作品の審査方法についてお話しいただけますか?

柿内 はい。まず、応募作品は社長の佐渡島とぼくを含めて、コルクのプロの編集者全員で見ていきます。そして、誰かひとりが「この作家と一緒にやりたい」と思えば受賞、という形をとりたいと思います。けっして全会一致で決めていくわけではありません。たとえば、5人中4人がダメ、イマイチと言っても、ひとりでも「いい!」と思えば、受賞になります。ふたり以上がいいと言ったら、奪い合いですね(笑)

加藤 スカウトに近いかたちで評価していくわけですか。総合点で評価せずにそういうやりかたをしているのは…。

柿内 平均値からは、才能は生まれないからです。

加藤 はい。

柿内 美少女コンテストなどでは、審査員みんなで評価を決めますよね。そうすると例えば5人の審査員が5段階で評価をしたら「4,4,4,3,3」みたいな総合力ピカイチの人がグランプリに選ばれやすいんです。でも才能って、やっぱり「5,2,1,1,1」みたいに偏った評価を受ける人に眠ってるんですよね。

加藤 たしかに、才能の定義って、そもそも「偏り」のことかもしれませんね。

柿内 はい、偏りであり、「過剰な部分」だと思っています。だから世のコンテストでは、グランプリより「審査員特別賞」みたいな脇役の賞をもらった人のほうがその後、成功をおさめるケースが多いと思うんです。

加藤 なるほど。

柿内 今の話をふまえて、クリエイターの方たちには、批判を怖れず、はずかしがらず、自分が「これだ!」と思うベタベタな王道マンガを堂々と描いてきてほしいですね。

加藤 わかりました。ちなみに受賞したクリエイターとコルクはその後、どういうかたちで付き合っていくのでしょう?

柿内 まず一作品を世に出せるまで、コルクで徹底的に編集サポートをします。

加藤 賞に選ばれた時点で、作品を1つ世に発表するまでは必ず支援すると。

柿内 はい。そこはコルクも覚悟をもってのぞみます。作品が世に出せるクオリティになるまでは、3ヶ月かかる場合もあれば、下手したら何年もかかる場合もあるかもしれない。でも納得するまで一緒にやっていけたらなと思います。
 だから受賞した作品をちょろっと編集しただけで世に出すということはしません。コルクのプロの編集者の力を出しきって、受賞作品をクリエイターと一緒に売り物にできるレベルにまで高めていくか、完全新作をつくっていくつもりです。

加藤 なるほど。クリエイターに覚悟を求めるならば、コルクのほうも覚悟を決めてサポートしていくということですね。

柿内 その通りです。そしてその作品はcakesでの連載はもちろんしますし、場合によっては、商業誌への持ち込みや単行本化なども実現する可能性は十分あります。
 実際に第一回の受賞者では、いわきりなおとさんが作品の単行本化が決定していたり、つきはなこさんが集英社のウェブメディア「ふんわりじゃんぷ」で連載したりしている例があります。

加藤 新人クリエイターは、このコンテストで受賞することで道が開けるかもしれませんね! 第一回に比べて、第二回「コルク×noteマンガコンテスト」は明確なコンセプトと受賞後のサポートを打ち出しました。多くのクリエイターが参加してくれるといいですね。

柿内 はい。いい人が来てくれるとうれしいですね。ぜひ「あなたが考える王道マンガ」を全力で描いて、応募してください! そしてコルクと一緒の船に乗って、読者の心に届くマンガを生み出しましょう!

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この連載について

コルク×noteマンガコンテスト

柿内芳文 /加藤貞顕

作家のエージェント業を行う会社・コルクと、クリエイターのプラットフォーム・note。両者が協力し、新たなクリエイターを発掘する「コルク×noteマンガコンテスト」の第二回が開催されます。『嫌われる勇気』や『インベスターZ』の担当編集で...もっと読む

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corkagency noteの加藤貞顕さん@sadaakiとコルク 柿内@kakkyoshifumiによる対談 「」 も公開されています。 応募はしなくても、興味があるという方、どうぞ! https://t.co/1qC72QKwzp 2年以上前 replyretweetfavorite

corkagency noteの加藤貞顕さん@sadaakiとコルク 柿内@kakkyoshifumiによる対談 「」 も公開されています。 応募はしなくても、興味があるという方、どうぞ! https://t.co/1qC72QKwzp 2年以上前 replyretweetfavorite

ayasegiken そうだよ。今こそ王道againだよ。 3年弱前 replyretweetfavorite