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最後にして最初のアイドル』草野原々、大いに語る

この秋、第4回ハヤカワSFコンテストでの特別賞受賞が発表されるや、ネットを中心に大きな話題を呼んだSF中篇『最後にして最初のアイドル』。11月22日(火)より、電子書籍オリジナル作品として配信が始まりました。それに合わせて、SFマガジン2016年12月号に掲載したインタビュウ記事を再録します。コンテスト史上最大の問題作はいかにして生まれたのか? 時代の混沌が生んだ新たなる才能にご注目ください。

【草野原々(くさの・げんげん)】
1990年生まれ。広島県東広島市出身。のちに神奈川県横浜市へ転居。桐蔭学園高校卒、慶應義塾大学環境情報学部卒。現在北海道大学大学院理学院在学中。

【11/24追記】
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──まずは自己紹介をお願いします。

草野 自己とは何か。社会生活を営むにあたって、自己紹介機能=自己製作機能が生まれた。文字から、図から、素早く切り替わるイラストからキャラクターが生まれるように、世界にあふれ、四六時中聞こえる〈心の声〉と場所を選ばず現れる映像から自己が生まれる。材料は有り余っている。大変なのはどこをどう繋げればよいかだ。適切な対象が作れないと大変だ。アニメを見てもセル画の連続しか見えないように、どれだけ口うるさい〈心の声〉を聞いても自己に行き着かない。重要なのは正確さではなくどれだけ素早く作れるかである。わたしも自己製作能力を持っている。さあ、自己を作るぞ!

 自己に必要なのは、まず存在だ! わたしの基盤となる存在は、一九九〇年、四月十六日、広島県東広島市で生まれたはずだ。データが正しいならばな。それから中学校になり、横浜市へと転居したが、まだわたしは発生していない。記憶はあるが、それが自己であるという感覚のタグ付けができていない。夢の記憶はあるが、わたしは夢の中の人物ではないのと同じようなことだ。わたしが生まれるのは、大学に入ってからの人生で最良の二つの選択を行ってからだ。人生のベスト2の選択。それは慶応SF研究会に入ったことだ。そこで、ようやくわたしは安定的な自己紹介=自己製作を繰り返すことになった。ベスト1の選択、それは『行動履歴』の製作だ。行動履歴とは、思考に浮かんだことを書き記すノートだ。このノートは一種の外部脳のはたらきをした。思考を相互に整理して、ひとつの体系を作ることができた。ようやく、「わたし」を固定できたのだ。

──応募の経緯を教えてください。

草野 皆さんご存知かもしれないが、拙作の原案はアニメ『ラブライブ!』の二次創作小説であった。ラブライブ!のSF小説作品を集めた『School Idol Fictionally』という合同誌に参加させてもらったものだ。もともとの題名は「最後にして最初の矢澤」という。当時、精神状態が非常に悪かったため、小説を書こうと思った。小説を書くモチベーションの維持にツイッターでSFの合同誌の企画などないか探してみたら見つけたので渡りに船で参加した。完成してみると非常に良い小説になったので、オリジナルに改稿して賞に投稿しようと決意した。基本的なストーリーの枠組みは変わっていないが、すでにキャラクターが確立している原案に対して、オリジナルにするためにはキャラクターを作らなければいけないため、主人公の半生を書き足した。また、作中でキーポイントとなる地球規模の大災害は、原案では温暖化防止の地球工学の破綻をきっかけにしたものであったが、太陽のスーパーフレアの暴走に変更した。

──SF小説はこれまでどんなものを読んできましたか?

草野 SF小説と聞くと、まっさきに連想するのがフィリップ・K・ディックである。彼の作品はわたしの血と肉である。特に意味不明となる後期の作品が好きだ。最も溺愛する作品は『ライズ民間警察機構』。LSDダーツを撃たれて世界が崩壊していく描写は他の小説と比べ物にならない。オーディオブックを買って英語で何度もそのシーンを聴いているくらいだ。好きなSFはとにかく壮大なものや意味がよく分からないもの、哲学的な要素があるもの、ヘンなものである。「大きなことは良いことだ」とばかりに銀河規模、宇宙規模、全時空規模のアイディアを繰り出すスティーヴン・バクスター。SF界では珍しいほどの徹底した悲観主義とスラップスティックを併せ持つスタニスワフ・レム。深遠な哲学的っぽい設定を用いているのに、基本はあくまでスペースオペラなバリントン・J・ベイリー。一発屋で終わったがとてつもなくヘンなSF『キャッチワールド』をこの世に残したクリス・ボイス。数学的知識をフルに活用して合理性と神秘性で殴りかかるルーディ・ラッカー。最近ではピーター・ワッツの『ブラインドサイト』が素晴らしかった。SFに求めるものは人間の頭をおかしくさせることだ。

──小説の書き手として意識されている方はいらっしゃいますか?

草野 フィリップ・K・ディックの初期作品は読者を退屈させないために、場面が停滞するとすぐに予想外のことが起きる。わたしも自分で書いていて退屈してきたらなんらかのアクションか、その場で考えたアイディアをぶち込む。わたしの書き方は基本的には足し算だ。大まかなストーリーラインに持っているアイディアをすべて投入する。これはワイドスクリーン・バロックというジャンルの手法である。スタニスワフ・レムは『ソラリス』を書くときはじめに自分でも答えを知らない謎を提示して、後半でその答えを考えるという手法をとっていたそうだが、物語が思いつかないときの方法として参考になる。描写の面では、ラヴクラフトのひたすら繰り返されるメタファーやマルセル・プルーストの延々と続くディテールに影響を受けた。

──「最後にして最初のアイドル」の特別賞受賞は、ネット上でも大きな話題となりました。ご感想はいかがでしょう。

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コメント

jumitaka “【本日配信開始】 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

avitaminose インタビュー記事「いずれは性質二元論をテーマにしたハードSFを書きたい」とかワイドスクリーン・百合・バロック構想とか、「とにかくメチャクチャで読む人の頭をおかしくして読後に踊りだしてしまうようなSFを書きたい」とか超期待なんですが。 https://t.co/bocumQ2 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

avitaminose 最近読んだもので一番近いのはカクヨムで公開されてるsanpow氏の「トランスヒューマンガンマ線バースト童話集」でしょうかね。あと、この作者インタビュ-はなかなか狂っててとてもよい。 https://t.co/bocumQ2 約2ヶ月前 replyretweetfavorite