「お約束のノリの良さ」を約束しない
織田裕二が主演しているドラマ『IQ246 華麗なる事件簿』(TBS系)は、『相棒』と『古畑任三郎』を足して3で割ったようなドラマなのだが、時折、足して2で割った感じに留まることもあるのでチャンネルを合わせている。織田は、群を抜いた頭脳で難事件を解決する法門寺沙羅駆を演じているのだが、貴族の末裔という役どころを意識した独特の抑揚をつけた喋り方がなかなか馴染まない。馴染まないことによって「今回、自分、結構、変わった演技をしています」と踏ん張っている織田裕二自身が前面に出てきてしまい、テレビの前で、その織田裕二濃度を意識せずに役に浸ろうと試みているうちに1時間が経過する。ベテラン俳優ともなれば、当たり役のイメージがいくつも重なっているので同様の現象が起きるはずなのだが、織田裕二はそれをほどくのに、とにかく時間がかかる。というか、自分は1時間費やしている。つまり、費やしっぱなしなのだ。
先週、NHK『あさイチ』に織田裕二が登場すると、『東京ラブストーリー』で織田が演じたカンチの恋人役・リカになりきった有働由美子アナウンサーが番組冒頭から「カンチ~!」「カンチの私を見る目が変わっちゃったんだよ! 変わっちゃったんだよ!」と本気の演技を見せたものの、織田は笑顔で無視。昨今、この手の展開になると「まさかやってくれるとは思わなかった!」と周囲に言わせるノリの良さがお約束になっているが(←それがイイとも思わないけど)、織田は少しも乗っからなかった。織田は、かねてから、特定の役が浸透することを「理想でもあるのだが、弊害でもある」(織田裕二『脱線者』)と語ってきた。「『織田裕二』としてコンサートをしているのに『カンチ~』と声がかかる」「だが、いまステージに立っているのは『織田裕二』だ」と牽制してきた。そんな記載を引っ張って考えると、有働を笑顔で無視した織田は、心底止めてほしいと思っていたはず。
「握手してほしいって顔してるから」握手する
思春期の織田は、自分が何かしらに選ばれてこなかったことがコンプレックスだった。唯一選ばれたのは、幼稚園の「日焼け大会」で優勝したくらいのもの。中学三年生の時にテニス部で副キャプテンを任されると、サボっている部員を見つけてサーブを打ち込むなどしていたというのだが、そういうくすぶりが今改めて語られることは少なく、各媒体のゲスト出演やインタビューでは、彼の人気を決定付けた作品、『東京ラブストーリー』のカンチ、『振り返れば奴がいる』の司馬江太郎、『踊る大捜査線』の青島俊作などの役の印象をほどくところから入る。役と彼がほぼ同一化しており、彼自身の背景や現在の心象に早い段階から行き着けないのだ。
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