エビちゃんの過去
2000年代、一時は70万部を超えるほどの『CanCam』の人気を支えていたのは、エビちゃんこと蛯原友里でした。卒業号である2008年12月号、彼女ははじめて『CanCam』に登場した6年前を振り返ってこう言っています。
「それまでコンサバの服を着たことがなかった」
さらりと衝撃的な発言をしています。「めちゃ♥モテ」や「エビちゃんOL」とのコピーで一時代を築いた彼女は、それまで違ったスタイルをしていたわけです。コンサバとは、女性性を全開にするからこそそう呼ばれるわけですが、彼女はそうじゃなかったというのです。
ただ、私にはさもありなんという印象でした。というのも、彼女は九州産業大芸術学部デザイン学科出身。卒業制作は環境デザインでした。
九産大芸術学部とは、九州では数少ない美術系の学部です。エビちゃんは、鉛筆デッサンなどの受験をして大学に入学したタイプなのです。美大にコンサバスタイルの女性などいるわけありません。おそらく、彼女が学生時代に読んでいたファッション誌は『CUTiE』や『mini』でしょう。これらは、コンサバとは対局に位置する雑誌です。露出も少なく、ミニスカートは履きません。フェミニンな雰囲気はさらさらありません。
そんな彼女が、2000年代のコンサバスタイルを牽引していたのは、なんとも興味深い話ではありませんか。
低迷する『JJ』『CanCam』『Ray』
『JJ』『CanCam』『ViVi』『Ray』──タイトルの文字が赤く、20代前半向けのコンサバティブスタイルのファッション誌は、「赤文字(系)雑誌」と呼ばれて括られます。どれも毎月23日発売、価格は付録によって変動しますが概ね同じ650円です。
歴史を紐解けば、1975年に光文社が『JJ』を創刊し(78年月刊化)、以降、81年に小学館が『CanCam』、83年に講談社が『ViVi』、88年に主婦の友社が『Ray』と、続々と誕生していきました(2004~09年までは集英社の『PINKY』という雑誌も存在しました)。これらは、女性ファッション誌市場を牽引してきただけでなく、各時代の女性たちに大きな影響を与えてきました。
しかし、こうした赤文字雑誌が、現在岐路に立たされています。下のグラフは、過去5年間の赤文字4誌の発行部数の推移です(あくまでもこれは発行部数なので、実売はこの6~7割だと想定してください)。
見ての通り、どの雑誌も非常に厳しい状況が続いています。
中でも『CanCam』の凋落は著しいものがあります。2008年4~6月には55万部もありましたが、現在は20万部ほど。一時期は70万部を超えていたことを考えると三分の一以下になっています。
この部数減は、ネガティヴではない側面もあります。70万部超えていた06年当時、『CanCam』は部数を増やせば増やすほど利益が減るという状況になっていました。ファッション誌があれほどのカラーページにもかかわらず安い価格で売ることができるのは、他ジャンルの雑誌よりも広告が入るからです。よって、売れすぎてしまって逆に利益が下がってしまったのです。
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