そこは彼が住んでいる地域の最寄駅から、3つ離れた小田急線のターミナル駅だった。最寄駅まで行くと言ったのだが、そっちの方が困るとハッキリ言われて、待ち合わせ場所がターミナル駅近くの喫茶店に決まった。
「急にお呼びだてしてすいません。坂本隆二さんですね」
「えぇ」
坂本隆二が男から連絡を受けたのは3日前だった。
隆二は1カ月前に、3つ年上のシングルマザーの暁玲子と籍を入れたばかりだった。
親兄弟以外に新たな家族ができたことは、隆二にこの上ない幸福感をもたらしていた。入籍前に同棲生活を半年間送っていたから正直、こんなに気持ちに変化が生まれるとは思っていなかった。入籍するということは、相手の人生を背負うことになる。もちろん責任も伴う。だが隆二にとってその事実は、心を頼もしくしていた。「俺が玲子と優子を守る」、隆二は家族のおかげで強くなれると心から感じていた。
彼にとって平穏で陽だまりのような結婚生活はすでにスタートしていた。そんな幸せの最中に、元カノの話を聞きたいと言う男が現れた。しかも、その元カノとはストーカーまでしてきた女だ。断りのメールを返そうか随分迷った。
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