鶴瓶のスケベ学

若き笑福亭鶴瓶の純情

鶴瓶さんを語る上で欠かせないのが、「影の笑福亭鶴瓶」とも言われている妻・玲子さん。どうやら鶴瓶さんのスケべのルーツには、玲子さんに対する純情が秘められているようです。玲子さんとの馴れ初めを紐解きます。
芸歴40年を超える大御所芸人、笑福亭鶴瓶。還暦を過ぎた今も、若手にツッコまれ、イジられ、“笑われ”続けています。そんな鶴瓶さんの過剰なまでに「スケベ」な生き様へ迫る、てれびのスキマさん評伝コラムです。

「よかろー」

のちに妻になる玲子は、笑福亭鶴瓶に落語の世界に行きたいと言われると、四国弁でたった一言、そう返した。※1
それどころか、以前、生活のことを考え、就職のことを考えていると漏らした時、玲子は激怒した。

「私は、芸能人の奥さんになろうと思わへん。でも、結婚のために自分の夢を求めていかんと、やめてサラリーマンになるっていうのやったら、もう私のことは忘れてもええから」※2

ドラマの世界ではよく聞くような台詞だが、現実の世界でそう言い切るのは難しい。
「末路あわれは覚悟の前やで」という桂米朝の言葉があるとおり、芸人には、人生の終わりがあわれだろうが覚悟の上という考えがある。鶴瓶も同じだ。※3 そしてその信念は、妻である玲子も同様なのだ。

「影の笑福亭鶴瓶」

彼女をそう呼んでも過言ではないほど、笑福亭鶴瓶に大きな影響を与えた、いや、今でも与え続けているのが妻・玲子だ。

あの日あの時、あの場所でキミの頭をグワーッとつかまなければ

鶴瓶が玲子と出会ったのは大学の入試試験のときだった。

「ここへ集まってくれたのは他でもない—」

昼休みの食堂で突然鶴瓶は、他の受験生を前に“演説”を始めた。
受験という人生を決める大事なときでも、鶴瓶はふざけたい欲求に耐えきれなくなったのだ。

大半の人は「なんや、この人?」と呆れた顔で見ている。もちろん、試験に向けて最後の追い込みで勉強をしている人もいる。彼らにとっては迷惑でしかなかっただろう。
それでも鶴瓶は食堂の中を歩き回りながら、“演説”を続けた。鶴瓶の目線の先にカレーライスを美味しそうに食べている女性の二人組がいた。

「勉強してる人もおりゃ、こうやってカレーを食べてるヤツもおる!」

そういって鶴瓶は、二人組のうちのひとりの女性の頭をグワーッと掴んだ。
男子校育ちで女子に慣れていない。男子相手ならいくらでもバカ話できる鶴瓶も女子への接し方がまったく分からなかった。だから、そうやってふざけた勢いでしか、接することができなかったのだ。
突然、頭を触られたら、人によっては怒ってしまってもおかしくはない。
しかし、彼女は、鶴瓶を見上げ、ニコーっと笑った。 鶴瓶の“笑い”が通じたのだ。

その瞬間、彼女に鶴瓶は恋に落ちた。
その彼女こそ、玲子その人だった。

再会

鶴瓶は高校の友人たちのほとんどが桃山学院や近畿大学を受験する中、「過去を一旦捨てたい」という思いから、友人たちが受けていない英知大学、京都外大、関西外大、京都産業大学、関西大学を受験した。その中で当時、飛び抜けてレベルの高い関西大学以外の4校から合格通知を受け取った。
合格した4校から、京都産業大学を選んだ一番大きな理由は、彼女に再び会えるかもしれないと思ったからだ。
そしてその想いは実現する。
大学入学から少し経った頃だった。
大きな教室で「国際経済論」という授業を受けているときだ。

そこに鶴瓶と同じクラスの女性・美和とともに、玲子が教室に入ってきたのだ。

「うわぁ、この娘……」

鶴瓶は息を呑んだ。そこから鶴瓶の行動は早かった。
鶴瓶はその時、既に「童亭無学(どうてい・むがく)」を名乗り「落語研究会」に入っていた。美和とはもう親しかったため、玲子を紹介してもらい、2人を落研のマネージャーになってもらうように誘った。
そうして落研に入会した玲子はマネージャーにも関わらず「レモン亭円(まどか)」という高座名がつけられた。ちなみに、鶴瓶がのちに立ち上げることになる制作会社「おふぃす・まどか」(現在は鶴瓶の手から離れている)という名前はこの彼女の高座名から採ったものだろう。

なお、その落研で2人は原田伸郎、清水国明と出会う。彼らは「あのねのね」を結成するが、その初期メンバーに2人も入っていた。玲子はヴォーカルも担当。鶴瓶は歌っていた……わけではなく、後ろで踊っていた。

手もつながずに約5ヶ月の交際

「僕とつきおうてくれへんか」

7月の前期試験が終わった頃、ついに鶴瓶は意を決して告白した。 だが、答えは「今つきおうてる人がおるねん」というもの。鶴瓶の初恋はあえなく散った。
それから約2ヶ月後の9月、落研恒例のコンパが開かれた。
人が集まってワイワイするのが大好きな鶴瓶は、失恋のショックも吹き飛んだのか、大いに騒いでいた。
しかし、鶴瓶の目に、部屋の隅でしょんぼりとしている玲子が映った。

「円、どないしてん」
「私、ふられてしもてん」

喜んでいいのか、彼女と一緒に悲しんでいいのか複雑な思いだった。なんとか彼女を慰めてあげたい。そんな思いで、冗談っぽく鶴瓶は言った。

「ほ、ほんなら、僕とつき合うてくれへんか」

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2017-08-10

この連載について

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鶴瓶のスケベ学

てれびのスキマ(戸部田誠)

芸歴40年を超える大御所芸人、笑福亭鶴瓶。還暦を過ぎた今も、若手にツッコまれ、イジられ、“笑われ”続けています。しかし、落語家なのにアフロヘアでデビュー、吉本と松竹の共演NGを破った明石家さんまさんとの交流、抗議を込めて生放送で股間を...もっと読む

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コメント

MOGGYSBOOKS やっぱり鶴瓶さんいいなー。 約2年前 replyretweetfavorite

danilo513 奥さんの言動はかっこいいと思う。 プールで航空券を破った話とか、奥さんの家族に求められ、遺産は一切受け取らないという書面に署名したり。 約2年前 replyretweetfavorite

u5u 「cakes」連載の「鶴瓶のスケベ学」更新されました。今回は鶴瓶の奥さんとの出会いからファーストキス、初体験について。“鶴瓶の「スケベ」とは、「純情」と言い換えることができる” 約2年前 replyretweetfavorite

subrok_673 毎回面白いけど今回は格段に面白い!続きが気になる!気になる!読み終わって心がウキウキして雪積もってないけど大の字でダイブしたい気分になりました!青春やなぁ。「 約2年前 replyretweetfavorite