トウモロコシの収穫目前、「なんじゃこりゃあ!」な大事件

7月、金田さんが楽しみにしていたトウモロコシを収穫できる時期がやってきました。親友の甥っ子であるユウくん(4歳)も、収穫祭を心待ちにしているようです。しかし、大切に育てていた金田さんのトウモロコシに魔の手が襲い掛かります…。トウモロコシを狙う”害獣”と金田さんの激しい攻防の記録です。

ユウくん、タネまきに来る

我が畑には、夫のほかにもう一人働き手がいる。親友の甥っ子ユウくん(当時4歳)だ。

おばちゃんから私の畑の話を聞き、「ぼくにまかせて!」と意気込んでいるというので、弟子にしてやったのだが、そのユウくんが、ついに畑にやってきた。

「すっげー! 芽が出てるぞ!」

興奮して駆け回る幼稚園児に、私はさっそく指導を開始した。

「きょうはコマツナのタネをまいてもらいますよ」

じつを言うと、野菜作りはユウくんのほうが先輩だ。

彼が園芸を始めたのは2歳になる前。3歳の春に野菜作りに目覚め、今じゃ、タネや苗を見ただけで種類がわかる野菜博士だ。

スーパーで傷んだ野菜を見つけようものなら、

「このゴーヤー、先っぽがカビてる! こんなの売るなら半額シールつけなくちゃ!」と大声で批判するほど、野菜に厳しい眼をもっていた。

でもここでは、私が師匠だ。

「これがコマツナのタネです。今からこれをまきますよ」

「どうやんの?」

「こうです。あっ、ダメ! 一度にまかないで!」


それは、泣きたくなるほど適当なタネまきで、こんな感じで発芽しました。

「もういいよ。タネは私がまくから、水をやって」

すると彼は、バケツに土を入れ、そこに水をまいて混ぜ始めたのだ。

「あんた、何やってんの!」みるみる泥だらけになる息子に、母が悲鳴をあげる。

結局ユウくんは、バケツの風呂に入れられ、着替えて弁当を食べたら、帰っていった。

「ありがとう。戦力になったよ」私は涙をこらえて手を振った。

「また来るね!」

「あ……うん」

帰宅後彼は「タエちゃんの畑、ディズニーランドと同じくらい楽しい!」と言ったそうだ。

うれしいよ。じゃあ次は、ディズニーランドに行ってくれ。


母とおばに風呂に入れられる博士。 いったい何しに来たんだ、キミは?

お中元に一本だけならあげよう

「ねえねえ、トウモロコシ、もう毛が生えた?」

6月末、ユウくんにそう聞かれた。収穫に来るのを、楽しみにしているのだ。

「毛が黒くなったら食べ頃なんだぜ」

一般的に「ヒゲ」と呼ばれる部分は、トウモロコシのめしべだ。受粉を終え、粒が太って食べ頃になると、ヒゲの色は茶褐色になる。それが収穫の目安だ。


めしべの数は、トウモロコシの粒の数と同じ。茎の先につく雄穂から花粉が落ち、これにつくと、実が太り始めます。

「知ってる。ユウくんと同じでまだ子どもだから、毛は生えてないよ。でも、そろそろネットで囲んでおくね」

じつは2週間ほど前、ご近所の区画で、事件が起きていた。何者かがキュウリを食べちゃったのである。

「ハクビシンだな」

「やっぱり出たね」

畑のおじさまたちは、色づき始めたトマトの畝を、ネットで囲み始めた。

「トウモロコシはとくに狙われるから、早めに対策したほうがいいって」

お隣のO野さんのアドバイスを伝えると、「ついに来たか~」と、夫はどこかうれしそうだ。

以前、農園の近くで、私たちはハクビシンを見かけたことがあった。尾も含めると1mにもなる、ジャコウネコの仲間。鼻筋が白いので、すぐにそれとわかる。あんな動物がそばで暮らしていると思うと、なんだかうれしい。

来ると期待したウサギやリスがいっこうに遊びに来ないので、この際ハクビシンでもいいや。

「人に盗まれるのはいやだけど、動物に少し食べられるくらいはかまわないよね。トウモロコシも、1本だけならお中元にあげてもいいよ」

それでも、友人を招いて収穫祭をするからには、トウモロコシを守らないと。夫は、早々にその畝をネットで囲った。


ハクビシンのスペックは不明だが、これなら入れないでしょう。

害獣め、このままですむと思うなよ

トウモロコシの収穫祭は、7月最後の火曜日に決まった。とりたての味は、スーパーのそれとはまるで別物らしい。

「あと2回寝たら、それが味わえるのね」

ワクワクしながら畑へ向かった日曜日。坂をのぼっていくと、

「ん?」

ようすがおかしい。背の高いはずのトウモロコシが見えないのだ。

あわてて駆け寄った畑を見て、私は息をのんだ。

「なんじゃこりゃあ……」

トウモロコシがみんな倒れているではないか。

「なんなのこれ? 野菜泥棒?」夫も唖然としている。

よく見ると、皮をむしられ、すっかり粒のなくなったトウモロコシがいくつも転がっていた。

いくら腹ペコでも、生のトウモロコシをここまでワイルドに食べる人間はいやしない。

「やられたね。ハクビシンだよ」夫はつぶやいた。


辺りに漂う異様な空気は、おそらくトウモロコシの地縛霊です。

ショックで言葉が出ない。松田優作じゃないが、人間あんまり驚くと、「なんじゃこりゃあ」以外、言えないのだ。

「どこから入ったのかな? ネットを開けた形跡はないのに」

いつだって冷静な夫は、鑑識のように事件現場を調べて回る。

「ああ、下からもぐったんだ。それにしてもひどいね。1頭のしわざじゃないよ、これは」

私たちのほかにも「あのトウモロコシ、そろそろ食べ頃ね」と楽しみにしていた家族がいたのか……。

「動物に食べられるのはかまわないなんて、だれが言ったんだっけ?」

夫の言葉に、私は急に怒りがこみ上げた。

「私じゃないよ! だいいち、あんたのネットの張り方があまかったんだろ!」

「はぁ? ぼくのせいですか?」

私たちはお互いをののしりながらも、生存しているトウモロコシを必死に捜した。

どうにか助かった株は、わずか8本。

「悪いから、これくらいは残してやろうっていう、ハクビシンのお情けかね」 夫はつぶやき、私にたずねた。

「収穫祭、どうするの?」

「やるさ! 意地でもやってやる! 害獣め、このままですむと思うなよ。猟銃の資格をとってやるからな!」


きれいに食べちゃって、さぞかしおいしかったのでしょうね(涙)

これはもう大きくならないよ

2日後、ユウくんがやってきた。ハクビシン事件は、とっくに耳に入っている。

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シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

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