iPhoneと焼き物を比べたら、焼き物のほうがイノベーティブだ|丸若裕俊(丸若屋 代表)〈中編〉

九谷焼と衝撃の出会いを果たし、その価値を広めようと活動を始めた丸若裕俊さん。身一つで伝統工芸の世界に飛び込み、各地の職人や関係者に話を聞いてまわりました。そこで痛感したのは、伝統工芸の不条理さ。そこがおもしろいところでもあるけれど、価値ある作品が正当に評価されない要因にもなっている。丸若さんがたくさんの人と話してたどり着いた、忘れてはいけない「本質」とは。

伝統工芸を助けようとしているわけではない

—丸若さんは、伝統工芸の何に惹かれているのでしょうか。

 それこそカオスなところですね。例えば、工芸に携わる人たちの中には、工業製品のことを低く見る人がいますが、それはとても残念なこと。「あれは機械で作ってる」、って。でも、そう言っている人が電気で動く窯で焼き物を焼いていたりするんですよ。その整合性ってどうなってるんだろう、と。また、「うちは何代も続いている職人の家系で……」という話を聞いていたら、いきなり「5代目は違う仕事してたんだけど」とか言うわけです。え、それ1回途絶えてるじゃん! みたいな(笑)。でも最終的には、「歴史が長いから焼き物はすごいんだ。数百年以上続いてきた」と言う。

—数百年はすごいですね……。

 どういうところから始まったのか聞いてみると、「神様が地上に降りてきて……」と語り始める。そういう話が本当にツボで、いくらでも聞いてて飽きないんです。人は謎に惹かれるものですよね。ピラミッドに興味を持つ人がが世界的に多い理由の一つは、謎に満ちているからです。それと同じものを、伝統工芸に感じました。

 しかもめちゃくちゃなことを言っているにもかかわらず、アウトプットは圧倒的に美しい。そこがさらにおもしろい。僕としては、九谷焼を始めとする伝統工芸というすごく良いコンテンツを見つけたから、それをどう広めようか考えてるだけなんです。でも、「伝統工芸を助けようとしている若者」という文脈で語られることがあって、「ちょっと違うんだけどな」と思います。

—伝統工芸ならなんでもいい、というわけではない。

 そう。伝統工芸をうたいながら、それに乗じて和風を売りにした似て非なるものを売っているものの存在は、買う側の混乱を呼び、結果的に興味を失わせている。それって、けっきょく伝統工芸の市場を食いつぶしているんですよ。

 ブランドで例えると、ハイブランドのまがいものが大量に市場に出回ることで、世の中的に「ハイブランドの品質は悪い」と思われてしまっている。それが今の伝統工芸の状況です。

—良いものにも、悪いものにも、相応の評価がつくべきだと。

 さらに、良いものには対価が発生するのは当然ですよね。アパレル業界で働いていたとき、アウトドアブランドの高機能なダウンジャケットは、普通のダウンジャケットと比べると値段が倍以上違いました。でも、それが当たり前ですよね。磁器も、その価値に応じて適正な価格をつけるべきなんです。

 そういう当たり前のことを主張する人が、伝統工芸の世界にはこれまであまりいなかったので、僕の活動が目立っているのかもしれません。

人間は自然の一部だということを、都市の人間は忘れている

—まったくつてもなかった伝統工芸の世界に、会社を辞めて身一つで飛び込んだわけですよね。不安はなかったのでしょうか。

 そうですね、その時は何も考えてなかったかな(笑)。僕はそもそも、「変な人」の話を聞くのが好きだったんです。会社を辞めてふらふら国内外を旅していた時、出会った人のなかで「変な人」の多くが、職人や農作物の生産者でした。

「変な人」と言いましたが、その人達の話はよく聞くととても本質をついているんです。「まともすぎて、世の中からはズレている人」と言ってもいいかもしれません。

—どういう話が「本質的」だと感じたのでしょうか。

 人間は自然の一部である、ということですね。多くの都市では、人間と自然は別だと考えています。これは中世ヨーロッパで生まれた思想で、そこから人間は自然をコントロールしようとし始めた。でも人間自身が自然の一部なんだから、コントロールしようとすることがおかしいんです。

 一方、農業に従事している人は、自分は自然の一部だということを日々自覚させられています。農作物はどれだけ一生懸命育てても、台風が来たら全滅したりするからです。自分ではどうにもならないことがあるとわかっている。

 焼き物もそうなんですよ。丹精込めてつくっても、いざ焼くとヒビが入ったり割れたりする。これはもう、火に任せるしかないんです。こういうときに、自然の要素をすべてコントロールしようとするといたちごっこになる。でも、自然の恵みをもらって生きていると考えれば、すべてのことは最終的に「仕方がない」と受け入れられるようになるんです。

 はじめは、この境地が意味不明でした。でも、だんだんと感覚的に理解できるようになったら、それが本質だとわかったんです。もういま僕は、パソコンも自然物の一部だと思っているんですよ。

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コメント

yaiask 丸若さんの話を聞いて、たしかに焼物ってすごい発明だ…と思いました 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

abura "もういま僕は、パソコンも自然物の一部だと思っているんですよ。人間が自然物なのだから、その人間が生み出すものもまた自然の一部ですよね" 約2ヶ月前 replyretweetfavorite