生きる理由を探してる人へ

大谷ノブ彦が自殺しかけた日

「自殺=悪」の決めつけが遺族を苦しめることもある。それでも自殺は「しないほうがいい」。 追いつめられていても、現状から脱出して「違うかたちで生きる」という道を提示できないか。 変えられるのは未来だけじゃない。
芸人・大谷ノブ彦さんと作家・平野啓一郎さんがおくる異色対談を収めた新書『生きる理由を探してる人へ』の「第三章 大谷ノブ彦が自殺しかけた日」より、一部抜粋した特別版です。

■ 父と母の恋路

大谷ノブ彦(以下:大谷) 二年前に僕は、小学生の息子を連れて、自分を捨てた父親に会いに行ったんです。僕が生まれたところでもある下関なんですけど、息子との二人旅で行ったんですね。

平野啓一郎(以下:平野) 離婚という形にはなってたんですか?

大谷 離婚ですね。父親が出て行ったあと、苗字が変わりましたから。そのことでまず他者との社会性がうまく取れなくなったんです。「あれ? うち、変なんだ」みたいな感じで。その後、母親はスナックをやってたんです。いまは母子家庭の子も増えてますけど、当時の田舎にはそんなにいなかったですから。そこで母親がスナックをやっているというのは二重に嫌だったんです。

 ちょっと話が逸れますけど、うちの相方の大地も、平野さんと同じで、お父さんがポックリ逝っちゃってたんですね。小学生のときのことで、自分の誕生日だったそうですけど、僕とあいつが出会った中学のときには、あいつはすでにそれをネタにしてたんです。お父さんの死んだエピソードで笑いを取ってたんですよ。そのときに「自分で自分をかわいそうだと思ってる俺は格好悪いな」と思ったんです。それが中三の十四歳のときのことで、自分なりにかなりの衝撃だったんです。

 それまでの僕はずっとひとりでいるような子供だったのに、そこから大地と仲良くなったんですよ。その後、大地の家に泊まりに行くことになったときなんか、「いままでそんなことなかったのに!」って母ちゃんが喜んじゃって、着替えを五着くらい持たされました。それくらい友達がいなかったんですね。それから高校も別々になったけど、偶然、再会したことからコンビを組むことになったんだから不思議な縁ですね。

平野 そうなんですね。

大谷 話を戻すと、なぜだかわかんないけど、自分の息子を、自分の父親に会わせておきたくなって、下関に行ったんですよ。それでいろいろ話をするなかで、親父が母ちゃんをナンパしたのが二人の始まりだったというようなことをはじめて知ったんです。

 うちの母ちゃんは、電車の中で物を売ってた売り子さんだったんですけど、そのときすでに婚約者がいたそうなんです。国鉄の職員で、すごくマジメで将来も有望な人だったようです。それに対してうちの親父は、高田純次さんみたいなルックスで、ペラペラと嘘や適当なことを言うけど、ちょっと女にモテる感じだった。

 そんな親父にナンパされて電話番号を渡されても、母ちゃんは堅い人間だったので、連絡はしなかったといいます。ただ、その後、遠い親戚か何かのお葬式でたまたま再会して、これも何かの縁だと、また口説かれたそうなんですね(笑)。それで結局、好きになってしまい、婚約者を捨てて遠距離恋愛を始めた。やがて母ちゃんが仕事を辞めて、そっちに住むつもりで親父のいる下関に行ったらしいんです。

 そんな話は全部、そのとき親父から聞いたんですよ。

 普通だったら、はじめて孫と会ったら、ものすごく喜んで、かわいがってくれそうなものですけど、親父は幼い僕を捨てているからか、小さな子供とうまくコミュニケーションを取れないようだったんです。目も合わせないで、最初は一方的に「自分は最近、こうだ」みたいな話ばかりをしてたんです。

 うちの息子も「あれ?」って感じになってるのに、とにかく適当なことを話し続けているだけだったので、「母ちゃんとはどうやって知り合ったの?」とこっちが聞いたことから、そういう話になったんですね。

 いろいろ驚きましたが、ひとしきり話を聞いたあと、最後に「俺も少しは余裕ができてきたから、もし生活が大変なんだったら、お金を振り込むから、口座番号教えてよ」って言ったら、親父はそこではじめて、「いいんですか、そんなこと?」って敬語になったんですよ(笑)。

平野 (笑)。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

コルク

この連載について

初回を読む
生きる理由を探してる人へ

大谷ノブ彦 /平野啓一郎

「自殺=悪」の決めつけが遺族を苦しめることもある。それでも自殺は「しないほうがいい」。 追いつめられていても、現状から脱出して「違うかたちで生きる」という道を提示できないか。 変えられるのは未来だけじゃない。芸人と作家が語り合う異色対...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません