第175回 どう見つけたのかは問わないで(前編)

「でも《両方》だったら《かつ》ではないんでしょうか? 両方なんですから」とテトラちゃんが問いかける。 「論理と証明」第3章前編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
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図書室にて

テトラ「ユーリちゃんの気持ち、よくわかりますっ!」

「というと?」

ここは高校の図書室。は後輩のテトラちゃんに述語論理の話をしていた。 ちょうど先日ユーリと話していたのと同じ内容である(第174回参照)。

テトラ「《すべて》や《任意の》が省略されているのは困るというお話ですよね。《実数を$2$乗したら$0$以上になるか?》と聞かれたとき、 正確には《任意の実数を$2$乗したら……》と聞かれているわけですから」

「そうだね。ユーリからも言われたよ。『省略するなー!』って。でも、話しているときにいちいち《任意の》を付けていると長くなってしまって、 何をいってるかわかりにくくなることもあるから……もちろん、 証明するときにはそこはきちんと理解しておかないとまずいけど」

テトラ「そういえば、あたしも《すべて》で迷ったことがありました。いつでしたか、$2$次方程式を学んだときのことです。 問題集にこんな問いがありました」

$x = 1$は方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$を満たすか。

「これは、満たすよね。$x^2 - 3x + 2$の$x$に$1$を代入すれば、値は$0$になるから。$1^2 - 3\cdot1 + 2 = 1 - 3 + 2 = 0$で」

テトラ「はい。それはよかったんですが、その後、こんな問題が……」

方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$の解を求めよ。

「なるほど?」

テトラ「$x = 1$だ! とあたしは思いました。だって直前に$x = 1$はこの方程式を満たすことを確かめましたから。 でも解答を見ると、$x = 1, 2$と書いてあったんです」

「そうだね。$x = 1$も$x = 2$もこの方程式を満たす数だから」

テトラ「でも、それって、何だか引っ掛けられたような気がしました。《方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$の解をすべて求めよ》 だったら気付いたんですけれど」

「うんうん、テトラちゃんの考えはもっともだと思うよ。『方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$の解を求めよ』 って問題はまちがいとは言いにくいけど、不親切だよね。 もっとちゃんというなら、 『$x$に関する$2$次方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$の解をすべて求めよ』 とする方がいいと思うなあ」

テトラ「はい……」

「別の問い方で『$x$に関する$2$次方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$を解け』というのもあるよね。これも《すべて》という言葉は出てきていないけど、《解をすべて求めよ》の意味になる」

テトラ「はい。もっとも……あたしは、答えが一つだけ見つかったときに《他にはないかな?》と考えないのはまずかったと思いました。 《すべて》を問われているかどうかを意識するのは大事ですよね」

「そういえば、さっきテトラちゃんが言ってた『解は$x = 1,2$』というのも、省略した言い方だよ」

テトラ「といいますと?」

「$x = 1,2$のコンマ($,$)って何だろうという話。これは『$x = 1$または$x = 2$』という意味で使っていると思うんだけど」

テトラ「ああ、確かにそうですね。《または》の意味に……ええ? 《または》なんですか? だって、この方程式の解は$x = 1$と$x = 2$の両方ですよね。 両方だったら《かつ》ではないんでしょうか」

「ええと……ああ、いやいや、《または》でいいよ。$x = 1$と$x = 2$の両方が解なんだけど、その《両方》の意味は、 $x = 1$でもいいし、$x = 2$でもいいってことだよね。 だって、$x$に$1$を代入しても方程式を満たすし、 $x$に$2$を代入しても方程式を満たすんだから」

テトラ「ははあ」

「《かつ》にしてしまうと変なことになるよ。だって、$x = 1$と$x = 2$を同時に満たす$x$は存在しないから」

テトラ「ああ、確かにそうですね。納得です。《または》なんですね……なかなか難しいです」

「うん。だったら《論理》の世界から《集合》の世界に移ると、もっとわかりやすくなると思うよ」

集合の世界へ

テトラ「集合の……世界ですか」

「うん、そうだよ。話を簡単にするために《実数全体の集合》の範囲で考えることにするね」

テトラ「はい」

「それで、さっきの方程式を実数$x$に関する述語だと考えるんだよ。述語は条件ともいうけど」

$$ \begin{align*} x^2 - 3x + 2 &= 0 && \text{$x$に関する$2$次方程式} \\ x^2 - 3x + 2 &= 0 && \text{$x$に関する述語(条件といってもいい)} \\ \end{align*} $$

テトラ「はい……」

「それで、この述語に$P(x)$と名前を付ける」

テトラ「$P(x)$」

「ここで、$P(x)$の$x$に実数を何か代入すると、$P(x)$は真になったり偽になったりするわけだよね? たとえば、 $P(1)$は真になる」

テトラ「それはそうですね。$P(1)$は$x^2 - 3x + 2 = 0$の$x$に$1$を代入したわけですから。 真になります……それから、$P(2)$も真になります。 方程式を解いたのと同じですね?」

「《解いた》というよりも、$x = 1$や$x = 2$が《解であることを確かめた》 という方が正しいかな。$x = 1$や$x = 2$というのが与えられて、 $P(x)$の真偽を確かめたわけだから」

テトラ「ははあ」

「それで……たとえば円周率$\pi$を$x$に代入したら、$P(x)$は偽になる。つまり$P(\pi)$は偽」

テトラ「はい、わかります……あの、これは何をやっていらっしゃるんでしょうか」

「話が回りくどくなっちゃったね。$x$に関する述語$P(x)$を考えたとき、《$P(x)$を真にする実数全体の集合》というものを考えることができる、 っていいたかったんだ」

テトラ「$P(x)$を真にする実数……全体の集合」

「具体的に書くと、こういう集合」

述語$P(x)$を真にする実数全体の集合
$$ \SETL 1, 2 \SETR $$

テトラ「……」

「$1$と$2$だけを要素にする集合だね。こんなふうに、《与えられた述語を真にする要素全体の集合》のことを、 その述語の真理集合(しんりしゅうごう)っていうんだよ」

テトラ「ということは、$\SETL 1, 2 \SETR$は、$P(x)$の《真理集合》ということですか?」

「その通り。その確認はさすがテトラちゃんだね」

テトラ「は、はい。恐縮です……でも、これってSo what?(だから、なに?)ですよね。ち、違いますか?」

「そうだね。方程式の解を集合で表しただけの話だから。でも、これで集合の世界に移ったから、さっきの話の確認ができるよ」

テトラ「さっきの話……とは? すみません」

「ほら、方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$の解は$x = 1 \LOR x = 2$であるという話。こんなふうに二つの式を並べてみれば《論理の世界》と《集合の世界》 に対応関係があることがよくわかるよね」

《論理の世界》と《集合の世界》の対応関係
$$ \begin{array}{ccccc} x = 1 & \LOR & x = 2 \\ \vdots & \vdots & \vdots \\ \SETL 1 \SETR & \cup & \SETL 2 \SETR \\ \end{array} $$

テトラ「ははあ……わかってきました! $x = 1 \LOR x = 2$は論理の世界の言葉で、 $\SETL 1 \SETR \cup \SETL 2 \SETR$は集合の言葉ということですね!」

「そう! それでその両方がきれいに対応しているんだ。

  • $x = 1$という述語は$\SETL 1 \SETR$という集合に、
  • $x = 2$という述語は$\SETL 2 \SETR$という集合に、
  • $\LOR$という論理演算は$\cup$という集合演算に、
それぞれ対応しているのがわかる。 それでね、 《$2$次方程式$x^2 - 3x + 2 = 0$を解け》という代数の問いかけは、 《$x = 1 \LOR x = 2$》という述語を求めているともいえるし、 《$\SETL 1 \SETR \cup \SETL 2 \SETR$》という集合を求めているともいえるんだね」

テトラ「うわわっ……なんだかいろんなものが繋がりますっ!」

「だよね」

テトラ「ちょ、ちょっとすみません。いまさらですけれど、$\cup$というのは和集合……でいいんですよね?」

「うん、そうだよ。二つの集合の要素をすべて集めて作った集合になるね」

$$ \SETL 1 \SETR \cup \SETL 2 \SETR = \SETL 1, 2 \SETR $$

テトラ「はい、わかりました」

同値変形

「$2$次方程式を因数分解で解くときには、こんな論理の流れを使って解いていることになるよ。 最初の条件を、 同値な別の条件にどんどん変形していくんだね」

同値変形で$2$次方程式を解く様子
$$ \begin{array}{llll} & x^2 - 3x + 2 = 0 && \text{与えられた$2$次方程式を条件だと思う} \\ \LRARROW & (x - 1)(x - 2) = 0 && \text{因数分解して同値な条件にする} \\ \LRARROW & x - 1 = 0 \LOR x - 2 = 0 && \text{実数$\HIRANO$性質を使って同値な条件にする} \\ \LRARROW & x = 1 \LOR x = 2 && \text{等式$\HIRANO$性質を使って同値な条件にする} \\ \end{array} $$

テトラ「同値な条件に……する」

「何か引っかかる? 同値変形ってよくやるよね?」

テトラ「いえ、はい、よくわかります。あのですね。引っかかっていたわけではなく、 同値変形というのをしっかりとは意識してなかったな、 と思っていたんです。たとえば、 $$ x - 1 = 0 $$ という式を $$ x = 1 $$ のようにするのはよくやります。 $1$を左辺から右辺に移項していますよね。 それは計算として無意識にやっていますけど、 《条件を同値変形させている》とは意識してなくて……」

「ああ、そこか。そうだね。計算としてささっとやるから、 確かに意識しないことは多いかも。 でも$x - 1 = 0$という条件が成り立てば、$x = 1$は成り立つし、 逆に$x = 1$が成り立つなら$x - 1 = 0$が成り立つわけだから、同値な条件を作っているんだね」

テトラ「そうですね」

「そこが気になるなら、$(x - 1)(x - 2) = 0$から$x - 1 = 0 \LOR x - 2 = 0$という 同値変形も意識するとおもしろいよ。 《$2$個の実数の積が$0$に等しかったら、 少なくともどちらか一方は$0$に等しい》というのを論理的に式で書いていることになるから」

テトラ「そうですね……因数分解して方程式を解くというのは、当たり前のように計算してますけど、 論理的に考えると、条件を同値変形していることになるんですね」

集合の言葉で

「さっき、条件$P(x)$を真にする要素の集合として、《真理集合》という話をしたけど、それって、こんなふうに書くことができるよ」

条件$P(x)$の真理集合(条件$P(x)$を真にする要素全体の集合)
$$ \SETL x \SETM P(x) \SETR $$

テトラ「これは?」

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結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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hyuki 金曜日は『数学ガールの秘密ノート』の日。最新回はお休み。無料リンク2個をツイート。公式 「論理と証明」第3章(前編) 【12/30 13:48まで無料 】 https://t.co/UAogp2bVPP 2年以上前 replyretweetfavorite

chibio6 苦手の「ならば」、丁寧に考えてみると確かによくわかる。 2年以上前 replyretweetfavorite

kusyunn 論理と集合の対応を鮮やかに見せていく。論理の言葉から集合の言葉に翻訳をしているともとらえられるこの作業は翻訳とは明らかに違うものだけど違った角度から物事を見るというところは同じか? https://t.co/WddNwYgmz8 2年以上前 replyretweetfavorite

012F840A_orange テトラのツボがよくわからんw 2年以上前 replyretweetfavorite