弁護士資格を剥奪された顧問弁護士は、今なにを語るのか—vol.1

2万人以上の構成員を擁し、日本最大規模の指定暴力団・山口組。その山口組の顧問弁護士をつとめ、40年以上その歴史を見つめてきたのが、山之内幸夫さんです。法律の守り手である弁護士が、法律の穴をかいくぐる「悪者」であるはずの暴力団のそばに居続けた理由とは?そして、そのなかで見たものとは?『山口組顧問弁護士』の刊行を記念して行われたトークイベントの内容を、cakesでもお届けします。(聞き手:今西憲之 構成:平松梨沙 写真:渡辺愛理)

山口組、最初で最後の顧問弁護士

—まずは『山口組 顧問弁護士』(角川新書)刊行おめでとうございます。これはとある組の組長に聞いた話ですが、発売初日に本屋に行ったらたくさん平積みしてあったのに、翌日行ったら1冊しか残っていなかったらしいですよ。すごい売れ行きですね。

山之内幸夫(元弁護士。以下、山之内) 僕から言わせたら何でこんな本が売れるのか不思議なんですけどね(笑)。

—山之内先生は刑事弁護を引き受けるうちに暴力団関係の訴訟にかかわり、山口組の顧問弁護士となりました。抗争で実行犯となったヒットマンの弁護をつとめるだけでなく、映画化された著書『悲しきヒットマン』(徳間書店)など、執筆活動によって山口組の実情を伝えることもしてきました。

山之内 もともと組の顧問弁護士になる前から、三代目田岡体制で本部長をつとめた小田秀臣さんの会社の顧問弁護士を引き受けていたんです。

—本部長は、組のナンバー3にあたるポジションですね。

山之内 それはあくまで会社の顧問ということだから受けたんだけども、その後、田岡親分の直参若衆だった宅見勝組長の要請を受けて山口組のヒットマンたちの弁護をするようになり、宅見さんが四代目体制で若頭補佐に就任したことで、正式に顧問弁護士となることを要請されました。

—「山口組最初で最後の顧問弁護士」なんて言われたりもしますよね。

山之内 「ヤクザの顧問弁護士」なんて、それまで存在しなかったですからね。普通の弁護士なら引き受けないし。僕は……どうしてもヤクザの世界をのぞいてみたい好奇心が抑えられなかったんですね。結果として昨年末に弁護士資格を停止されてしまったわけですが。それでも、かれこれ40年近くもそばで山口組を見てきましたので、自分が見てきたものを残したいと思って執筆したのが今回の『山口組 顧問弁護士』です。

—これまでもフィクションは書かれてますけど、今回は新書です。2015年8月に起きた六代目山口組分裂の衝撃は今も続いていますが、これほど詳細に内部の状況が書かれている本はないと感じました。

山之内 顧問弁護士といっても、僕はあくまで組員の弁護や法律相談にかかわるだけで、組の運営や政治には一切かかわっていなかったんです。だから去年、六代目司忍体制の中枢といえる人たちが一挙に組を出たことも、実話誌の人から電話が来るまで知らなかった。
 六代目山口組も、分裂した神戸山口組も、よく知っている人ばかりですし、角を立てるようなことはしたくない。それで結構迷ったんだけど、分かれてしまった神戸山口組が1日でも早く合流してくれないかという祈りを込めて、本にも書くことにしました。それでも書きすぎちゃったかなとは思うんですが……。

—分裂の第一報を聞かれたとき、とっさに何を思いましたか?

山之内 寝耳に水でしたけど、まず浮かんだのは、四代目の竹中さんが殺されたときのことですね。あのときも、分裂のすえに「山一抗争」(※1)が起き、多くの人が死にました。今回はそうなってほしくないという思いです。
※1 1984年から1989年にかけて山口組と、山口組から独立してつくられた一和会の間に起こった暴力団抗争事件の総称。317件の大小抗争が発生し、一和会側に死者19人、負傷者49人、山口組側に死者10人負傷者17人、警察官・市民に負傷者4人を出した。抗争の直接の逮捕者は560人に及んだ。

—今日は山之内先生だけでなく、数々の実話誌で山口組関連の記事を執筆している斎藤三雄さんにもお越しいただいています。斎藤さんはどうですか?

斎藤三雄(実話誌記者。以下、斎藤) やはり信じられなかったですね。それに分裂以降、六代目山口組に話を聞きに行けば「お前は神戸側だろ」、神戸山口組にいくと「お前は六代目側だろ」と白い目で見られるようになっちゃって。取材する側としても大変です。

—でも雑誌の売上は分裂前より上がったんじゃないですか? 「週刊大衆」とか。

斎藤 そう言って20パーセントくらいじゃないかと思いますよ。まあ、1号ごとのページ数も増えるので、そのぶん原稿料は増えますね(笑)。でも収入の問題よりも、事態が収束してほしい思いのほうが強いです。

山之内 マスコミからある種の娯楽として取り上げられているのが、日本のヤクザ組織の世界的に珍しい点です。マフィアなんかは、映画でかっこよく描かれたりはしますけど、名前を出すだけで忌み嫌われていますし、公然性はなく地下組織化していますから。
 とはいえ、今はヤクザ業界全体が右肩下がりですし、警察の締め付けも厳しくなってきている。山口組には抗争によって大きくなってきた歴史はありますが、今回抗争にいたっても両者ともにつぶれるだけですよ。相手のトップクラスの人間を狙うという話であれば、それは組ぐるみの犯行だと認められて、こちらのトップが組織犯罪処罰法で罰せられます。

斎藤 すでに組員の拳銃所持について、確たる証拠もないのに、「若衆がガードのために拳銃を持っていることを上が知らない訳がない。それがヤクザの行動原理であり、本件には黙示の共謀が認められる」と共謀共同正犯を認定するようになっているのが日本の裁判所ですからね。

山之内 今回どちらかの組からヒットマンが「走って」しまったら、警察と裁判所がトップを見逃すわけがないですよ。もちろん一度盃を分けた親分から離れるというのは並大抵のことではないので、神戸山口組のみなさんには相当の覚悟があったでしょうが、ここはやはり、若衆たちの人生のことも考えて、もとに戻ってほしいと思います。

—今回の分裂の原因は、多くのメディアが伝えているとおり「金と人事」なんですか?

山之内 僕もそう思います。山口組では傘下の組から毎月徴収する会費があるのですが、その金額が五代目体制のときより35万円増えました。それだけでなく、本部から要請されて日用品を購入する必要もあるんです。その締め付けも厳しくなっていたみたいですね。
 以前、三次団体の小さな組が、私にやたらと水をプレゼントしにきたことがあって。こちらとしても、結構かさばるので困ったのですが、あとで「水を強制購入させられて困っているから先生から言ってほしい」というメッセージだったと理解しました(笑)。

—そんな大量に買わないといけなかったんですか?

山之内 強制されるわけじゃないんだけど、やっぱり買えばウケが良くなるから無理をするんですよ。日用品を買わせるというのは、まさにヤクザがみかじめ料(※2)をとるときの典型的な手段です。でもそれを組のなかでやったら、親方が若い衆をシノギにかけている(※3)のと一緒ですからねえ。
※2 暴力団がその勢力範囲内で風俗営業等の営業を行いあるいは行おうとしている者に対して要求する金銭。
※3 暴力団用語で収入および稼ぐ手段を「シノギ」といい、シノギの対象にすることを「シノギにかける」という。

斎藤 聞いた話だと、北区のほうにある葬儀場を買い取るための資金をたくわえるために会費などの徴収を強化していたとか。

山之内 山口組の不動産投資はすべて失敗していますね。ヤクザは不動産の売買ができないので厄介なんですよ。マンションを借りる賃貸業もだめですから。
 その他、全国の直参が神戸の本部につめる「参勤交代」制度などもそれぞれの組の財政を圧迫していたようです。ただ、分裂後の現在はこの制度はなくなったそうなので、「金」については話し合いで解決できたと思います。

—では「人事」のほうはどうでしょうか?

山之内 これは本の中でも書いていますが、司さんの六代目組長としての正当性はまったく疑いようがないんです。五代目渡辺組長が休養宣言をして、そこから統率のとれた山口組の立て直しをはかるというときに、候補はもう司さんしかいなかったんです。彼の実績、経済力、戦闘力、数々の抗争における実績。司さんが組長になったことに関しては、何の異論もなかったはずです。

—そもそも、五代目渡辺組長の休養宣言というのはどういうものだったんですか? なかなかないことですよね。

山之内 渡辺さんが休養したのは、組員が負った損害賠償を組長が背負うべきだという「使用者責任」が裁判と法律のそれぞれで認められた年でした。もちろん組員の賠償を組長がしないといけないっていうだけでも大変な話なんだけど、別に刑事事件には関係ないんです。
 それなのに渡辺さんが体調を崩されている時期に兵庫県警の人間が「親分、使用者責任が刑事事件にも及ぶ法律ができますよ」って耳打ちしたんです。実際はそんな法律はできてないんですけど、渡辺さんはそれを信じちゃって、まいって一切の行事に参加しなくなってしまった。

—天下の山口組組長でも、精神的にまいっちゃうんですか。

山之内 渡辺さんの場合は入れ墨を入れたときにC型肝炎になってしまい、その治療薬や睡眠薬の副作用に苦しんでいたという背景があります。しかし、もともと組長というのは本当に重圧の大きい仕事です。タマをとられたりしたら大抗争に発展したりするから外をうかつに飲み歩いたりもできないし、必ず護衛を連れていないといけないし。

—そうした重圧を超えて山口組2万人をまとめあげる存在として選ばれたのが六代目であるにもかかわらず、分裂が起きたと。

山之内 司さんが組長であることに異論はなかったにしても、やはり出身母体である弘道会の高山さんを若頭に抜擢したことなどが、山口組の「弘道会支配」を印象づけるように思った人も少なくないのでしょう。ヤクザにとって『座布団の位置』というのは、本人の名誉だけでなく、組員の士気やしのぎにも影響を持つとても重要なものなんです。

(「セーフティーネットとしてのヤクザ」は否定できない—vol.2 に続く)
本記事はLOFT9 Shibuyaで10月17日に行われたトークイベントを、『山口組 顧問弁護士』の内容もまじえて再構成したものです)


40年の弁護、独占手記!


山口組 顧問弁護士

角川新書

この連載について

山口組 顧問弁護士

山之内幸夫

2万人以上の構成員を擁し、日本最大規模の指定暴力団・山口組。その山口組の顧問弁護士をつとめ、40年以上その歴史を見つめてきたのが、山之内幸夫さんです。法律の守り手である弁護士が、法律の穴をかいくぐる「悪者」であるはずの暴力団のそばに居...もっと読む

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コメント

burningsan 弁護士サイドからはこの弁護士が出演していてなかなか熱く語っている。 10ヶ月前 replyretweetfavorite

sarirahira https://t.co/YYHnyjSYVV 10ヶ月前 replyretweetfavorite

fossettemaster 山口組の元顧問弁護士の山之内さん、すごい。 彼には間違いなく人間に対する「愛」がありますね。 https://t.co/9DQ4Cs7AwR 10ヶ月前 replyretweetfavorite

utakyoko 顧問 あ〜この本絶対面白いよ。五代目は入れ墨入れたときにC型肝炎になっちゃった。 10ヶ月前 replyretweetfavorite