ビルボードが「複合チャート」にこだわる理由
一方、オリコンとは全く違った形で、今の時代に対応したヒットチャートを打ち出しているのがビルボードだ。
ビルボードはCDの売り上げだけではなく様々な指標を合算した複合チャートとして「ジャパンHot 100」を発表している。アメリカで最も権威あるヒットチャートと言われる「Hot 100」の日本版だ。
100年以上の歴史を持ち、エルヴィス・プレスリー、ビートルズ、マイケル・ジャクソンからジャスティン・ビーバーまで数々の「全米1位」を報じてきたビルボード。
日本では2006年に株式会社阪神コンテンツリンクがそのライセンス契約を取得し「ビルボード・ジャパン」を開設、2008年に「ジャパンHot 100」をスタートさせた。当時からチャート・ディレクターを務める同社の礒崎誠二は、そのチャート設計思想を次のように語る。
「アメリカの『Hot 100』は、設立当初から複合チャートとして作られているものなんです。1958年に始まった時は、レコードの売り上げ、ラジオのオンエア回数、ジュークボックスの再生回数を合算したチャートでした。その後も、時代に応じてさまざまな指標を取り入れたり、外したりしてきた。
つまり、『ジャパンHot 100』を名乗るためには、各種データを合算した複合チャートでなければならないというルールがあったのです。『Hot 100』は、シングルのセールスランキングではなく、あくまで楽曲の複合型ヒットチャートという発想で作っているランキングなんですね」
当初はCDのセールス枚数とラジオのオンエア回数を合算することから始まった「ジャパンHot 100」は、その後2010年にEC(電子商取引)サイトの実売数とiTunesのダウンロード販売数を加えて「パッケージ・エアプレイ・デジタル」の3指標によるチャートにリニューアルし、2013年には、ツイッターでのアーティスト名・楽曲名のツイート回数、ルックアップ(PCによるCD読み込み)回数をチャート指標に加えた。
「僕らはツイッターのデータから『楽曲がどれくらい話題になっているのか』を測っています。その回数から、レコード会社やメディアやアーティスト、そしてユーザー自身による発信がどのようにリアクションを集めているかを測定することができる。
ルックアップは、購入だけでなくレンタルや友達との貸し借りも含めて、CDを入手した人が実際にそれをPCに読み込ませた回数がわかる。ユーザーのアクティビティが見えてくるのです」
さらに2015年にはYouTubeのミュージックビデオ再生回数(2016年よりGYAO!のデータも追加)、歌詞表示回数から推定したストリーミングサービス再生回数を加え、計7種類のデータを独自の係数で集計した「総合ヒットチャート」となった。
「今の時代、動画サイトでミュージックビデオを観るというのは、音楽に接触する主な方法の一つになっています。なので、その再生回数のデータを合算するのはとても有効なことでした」
ちなみに、本国アメリカの「Hot 100」と日本では、使用されているデータはかなり違う。アメリカではスポティファイやアップル・ミュージックなどのストリーミングサービスの再生回数がかなりの割合で加味されている。
では、なぜビルボードはチャートのリニューアルを繰り返してきたのか。指標に用いるデータはどんな判断で加えているのか。礒崎はこう続ける。
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