「音楽は特典に勝てない」
10年代はヒット曲の生まれづらい時代となった。そこにはチャートが示す異様な光景が広がっている。ただし、そのことを「AKB商法」のせいだけにするのも早計だ。
握手会の参加券などの特典を目当てにファンがCDを複数枚購入するというのは、AKB48関連だけでなく他のアイドルグループにも一般的に見られる話である。
また、「初回限定盤」と「通常盤」のような複数形態のパッケージを販売したり、店舗限定の特典をつけてCDを売り伸ばすことは、アイドルだけでなく他のバンドやアーティストにとっても、当たり前のやり方となっている。
こうした状況を受けて、2014年8月には、ゴールデンボンバーがシングル「ローラの傷だらけ」を、握手会の参加券やDVD、ポスターといった店舗特典を一切つけない形でリリースした。バンドを率いる鬼龍院翔はブログにてこの意図をこう説明している。
CDがバカ売れしてきた90年代を生きてきた僕らは今はCDが売れない時代と言われつつもどこかCDが売れることを願っている。
しかしもう、今消費されるCDは特典の方に需要が傾き、収録された音楽、歌のほうがオマケのようになってしまっています。
↑こんなこと書かなくてもほとんどの人はわかっていると思いますが…。
でも、CDに関して色々な意見を見ているとやっぱりズレがあるように感じます。
一つ、今書いておきたいことは、CDに音楽以外の特典を付けて売ってるのはアイドルだけじゃないということ。
何故かアイドルばかりがCDの売り方について批判の的になりやすいですが、多くのバンドやアーティストが同じように今では特典を付けてCDを売っています。
僕はCDに握手の特典を付けるのをやめたいです。(キリショー☆ブログ「ローラの傷だらけ」2014年7月7日更新)
結果、「ローラの傷だらけ」の初週売り上げ枚数は約4.3万枚。握手や店舗特典をつけた前作「101回目の呪い」が初週約15.8万枚のセールスだったのに対し、3分の1弱の数字となった。
その結果を受けて、鬼龍院翔はブログに「誤解を恐れず言うと、僕たちのCDの売り上げ枚数でいうと音楽は特典に勝てない」と綴っている(キリショー☆ブログ「ローラ発売一週間」2014年8月26日更新)。
鬼龍院は「何を売ったかわからないまま獲得した1位より、はっきり自分の意見を無理矢理通し、自分で作った自分の作品を売ってみんなが買ってくれたことの方がはるかに嬉しいです」と続けて記している。
「CDを売る」というビジネスモデル自体が、もはや音楽を生業とするミュージシャンにとってもジレンマの対象になっていることがわかる。
ただ「特典商法」を批判するのは簡単なことである。しかし彼のように生真面目にそれに立ち向かうと、「そもそも音楽を売るとはどういうことか?」という巨大な命題に向き合わざるを得ない。
(PHOTO: Getty Images)
そもそも、なぜCDを売るのか?
そして、なぜその売り上げ枚数を競うのか?
なぜ勝ち負けがそこに生じるのか?
彼が自らの身を挺して提示した疑問には、いまだ明確な答えが示されていない。
オリコンはなぜ権威となり得たか
なぜ鬼龍院翔はCDから特典を排除することで「音楽と向き合う」必要があったのか。なぜAKB48は握手会の参加券や投票券「そのもの」を販売するのではなく、それをCDに封入して出荷するのか。
一つの答えとして、「オリコンランキングが今もなお権威を持っているから」ということが言える。オリコンが毎週発表するCDの売り上げ枚数やランキングの数字が、いまだにメディアに対してのプロモーション効果を持っていると業界全体にみなされているからだろう。
では、そもそもなぜオリコンは権威となり得たのか?
そして、オリコン側はこの10年代の状況をどう捉えているのか?
オリコン株式会社の編集主幹、垂石克哉に取材した。