フリーランスに必要な技能
季節は移り変わり、10月になっていた。『テレビブロス』の「SMAP解散シミュレーション」以降、『テレビブロス』の仕事はなかったが、再び『日経エンタテインメント!』の仕事をもらえることになった。
この時は、某テーマパークAとBが2つこの年にオープンしたことをきっかけに、「新オープンテーマパークの楽しみ方比較」というものを編集担当の大澤さんは企画の骨子とした。二人して頻繁に打ち合わせをし、「グルメ比較」「ほのぼのアトラクション比較」「大人がいかに楽しめるか比較」「お土産比較など」次々と企画内容を詰めていった。
この時にこの人の「仮説検証型企画作り」の真骨頂を見ることになる。
「中川君さぁ~、オレ、『Aは入口から左回りで周るのがおススメ! Bは入口から右回りで周るのがおススメ!』ってコーナーを作りたいんだよ。なんかさぁ、こういったテーマパークって、人間工学に基づいていたり、人の心理を読んでじわじわと盛り上げて、途中で山場を作って最後にしみじみ……、みたいにするんじゃないかと思うんだよね」
私は「まぁ、実際に取材してからそれは決めればいいんじゃないですか?」と言うが、「いや、多分オレは正しいんだよ。ちゃんと設計しているはずだ」とブツブツと言っていた。大澤さんは何やら高尚なことを考えているようだが、一ライターとしては、そんなことには付き合っている場合ではなく、とにかく取材許可を取らなくてはいけない。材料を取るには取材をするしかないので、考えるのは大澤さんに任せ、私は取材依頼書を書き、FAXと電話のやり取りを何度かした末に、両施設から取材許可をもらうことができた。
まず取材したのはAである。この時、同施設の広報担当者は私たちにずっとついて回ってくれる。各アトラクションについて説明をしてくれるほか、おいしい料理を紹介してくれたりもした。アトラクションや施設内のシンボリックな写真は彼らからもらうことにし、私は料理の写真や、細部の写真も撮るなど、カメラマンとしての仕事もしていた。だからといってギャラが上がるわけではない。
今となっては決定的な流れになっているのだが、フリーランスの場合、何でもできた方がいい。2001年頃であれば「ライター」だけできていれば専門職として食っていけるだけのギャラがもらえていたが、2013年の今は「編集者」「カメラマン」の両方もできた方が圧倒的に仕事がもらえる。
理由は予算が少ないからである。かつてはほんの小さなカットを撮影するにしても、15000円以上を払い、プロのカメラマンを雇っていた。ライターの立場からするとカメラマンの苦労も知らずに「いいなぁ~、彼らは現場に来てシャッター押して、写真を選んだら終わりだもんなぁ……。オレらは取材依頼を出し、役所みたいな組織だったらそこからたらいまわしにされ、検討に時間がかかるものだから何度も催促をし、ようやく日程が決まったところで取材をし、原稿を書き、そこから編集者に怒られて、何度も直して、見本誌を取材先に送らなくちゃいけないもんなぁ……。誤植があったら謝りにいかなくてはいけないし、それでいて15000円だもんなぁ……」なんて思うものである。
企業の意向、メディアの論理
それはさておき、続いてはBへの取材である。こちらでも広報担当がついてきてくれたが、AとB両方を取材しマスコミが、とかく便宜をはかられていることを知ることになる。両方ともかなり混んでいるテーマパークのため、まともに一般客と一緒に並ぼうものなら、平日であっても1時間待ちは当たり前だ。それではテーマパークがアピールしたいアトラクションを充分に周ることができない。そこで、広報の人が脇の入口から私たちを入れてくれ、マッハのスピードでアトラクションを体験できるのだ。
AとB、両方で充実の取材ができたのだが、Bの人から強調されたことが一つある。