トンネルを抜けて、その先へ(藍坊主 インタビュー前編)

さまざまなプロフェッショナルの考え方や制作へのアプローチを、その人の読書遍歴や本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は4ピースバンド・藍坊主のロングインタビュー前編をお届けします。

自分たちが「ここに生きている」ということが、音源を作っていくことで内面化されていくような感覚

彼らは音楽で心を揺さぶることができる。スタートは青春パンクだった。エモーショナルなスタンダード・ロック、時に複雑性を帯びた実験的な曲を世に出し、オルタナティヴなサウンドで哲学的な詩を歌い上げる。本当の顔はどこに、と思わずにはいられないほど、このアーティストは「変化」と共に歩み続けてきた。しかし、どんなに形が変わっていこうとも、彼らは常に「自分らしさ」という問いに、悩み、葛藤し、苦しみながらも答えを出し続ける。その本質が、追い求めているものが変わらないからこそ、私たちは彼らの作り出す音楽に心を揺さぶられるのだ。今回のアルバム『Luno』は年齢も重ね、環境も変わった藍坊主の第二章を象徴する作品。その制作背景とともに、数年前に端を発する、ある違和感の正体について訊いてみた。

— 『ココーノ』以来、1年9ヶ月ぶりとなるニューアルバム『Luno』をリリース。自由で力強く、同時に懐かしさも感じることができる、まさに原点回帰の作品でした。同時に、ここ数年の楽曲で感じていた「音楽をすることへの迷い」みたいなものも無くなっていた。リスタートを飾る、藍坊主の「過去」と「現在」をつなぐ今作。その制作背景を教えてください。

hozzy 去年の夏に『降車ボタンを押さなかったら』というシングルを出した時から、なんだろうな……良い意味でも悪い意味でも、藍坊主がやってきたものを一回無くしてやろうという思いがありました。正直な話をすると、バンド自体が無くなりそうになっていた。俺が、辞めたいと言っていて。

でも、もう一回藍坊主として頑張ろうと思って、『降車ボタンを押さなかったら』を書いたんですけど、書いているときは感覚がまだふわっとしていた。やっぱり、辞めると言っていたし、全部終わらせようと思っていたところからもう一度始めることは、すぐにできるものじゃない。だから、頭で色々考えてしまっていたんです。

ベースの藤森が作曲して俺が詩を書いた『魔法以上が宿ってゆく』という曲を出したのが去年の冬。とりあえず今書けるものを、今できることを、とにかくやろうとの思いで作った曲です。作業を長い時間、ふたりでやっていたんですけど、そうしているうちに昔みたいな、実験的に曲を作って手持ちの材料を増やそうとか思う前の、ただ好きで曲を作っていたあの頃のシンプルな向き合い方が今の自分にだんだん馴染んできた。新しいアルバムを出そうとなった段階で、曲をまた書いていくわけですけど、一曲書くごとに「ただ好きで曲を作る」という気持ちが強くなってきたんです。完成してみたら、藤森も同じ気持ちでいてくれたことが分かった。

藤森真一(以下、藤森) 思い返してみると、色々試して手持ちのカードを増やそうという意識より「今あるカードの良さを再確認しよう」と思い始めたことが大きかったかなあ。藍坊主は4人編成のバンドで、メンバーが4人いたら4枚のカードがあるわけです。それぞれのカードを改めてもう一度見てみると、こういう良さがあったのかと気付く。それを、曲を制作しながら再確認できたというのもあるし、ライブをやりつつ見えてきた、みたいなところもありましたね。

— ライブも精力的に行われていました。

藤森 実は『ココーノ』のレコ発ぐらいからライブの感じも変わってきて、なんというか、前向きになってきたんですよね。

— 「辞める気だった」というhozzyさんの言葉が衝撃的だったのですが、当時hozzyさんが抱えていた息苦しさみたいなものは、メンバーとしても感じていましたか?

渡辺拓郎(以下、渡辺) 「辞めたい」って話をhozzyから聞いてちょっとしてからなんだけど、「分かった」って言葉が自然と出てきたんだよね。それまでは気付いてなかったんですけど、一歩引いてみて見るとホッとしている自分もいて。

— 拓郎さんもどこかで、藍坊主を終わりにしたいという気持ちがあった。

渡辺 ひょっとしたら、俺ももう、限界だって思っているところがあったのかもしれないです。

hozzy 雰囲気は良くなかったですね、正直(笑)。メンバーの仲が悪くなってしまった、ということではなく。俺は2011年の震災から、音楽を作ることがバカらしいなと思い始めたところがあったんです。……いや、バカらしいというか、俺たちはアーティストなんだけど、こんな時にステージに立っているのってどうなの? と思っていたんですね。藍坊主の音楽って、生きることの根本を考えて、それをつきつめながら作っているんですが、すごく矛盾を感じるようになってしまった。俺や藤森の実家が東北にあったということも、もちろん理由としてはありますけど。

— 震災後に発売されたミニアルバムやフルアルバムは、当時、聴いていても苦しくて、うまく咀嚼することができなかった覚えがあります。作り手が感じていた閉塞感や、葛藤、それこそ息苦しさまでもが伝わってくるような感覚。

藤森 『ブルーメリー』(1stミニアルバム)では、個人で色々悩みながら曲を書いていたものを、同じ悩みでも「それはバンドにとってどうなのか?」ということを改めて考えて、試行錯誤しながら作っていました。たぶん、今作にもつながっていくと思うんですけど、昔と比べて悩みの内容が少しずつ変わってきたんです。僕たちは今まで各々で新しいことをやってきたけれど、それをバンドでちゃんと昇華した方が良いんじゃないかと、メンバーみんなが思い始めていました。例えば2014年に出した『ココーノ』というアルバムに入っている「バタフライ」は、全員のイメージを共有しながら作ることのできた曲。この時くらいから、悩んでいるけれども少し、閉塞感みたいなものはなくなってきたのかなと。

— そして改めて今回、それぞれのカードの良さを再確認して、見えてきたものは?

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コメント

ora109pon https://t.co/1trkWrQrbe https://t.co/1trkWrQrbe 1年以上前 replyretweetfavorite

oikekarasuma 藍坊主さんへのインタビュー、cakesに掲載されております。僕の重すぎる藍坊主愛とともにお楽しみください。\\\\٩( 'ω' )و /// https://t.co/qxmw56Zi3C 約3年前 replyretweetfavorite

masa_shoji 最新記事、公開!! |[今なら無料!] 約3年前 replyretweetfavorite