マイナスイメージは刷り込まない
佐々木 失敗を教訓にするのは悪くないのですが、記憶に刷り込んではいけませんね。
たとえば、新商品の展示会で「前回のレイアウトはここがダメだった。照明の角度が良くないから商品が映えなかった」と上司が説明したとすると、部下の脳裏を過るのは悪かった記憶ばかりです。そこで「お客さんが商品を手に取りやすいレイアウトを考えよう。照明の角度も工夫すれば、さらに多くのお客さんがウチの商品に手を伸ばすはずだよ」と言えば、同じことがまったく違った印象で伝えられます。
山本 そうですね、サッカーでも同じです。「ここでミスをしたらすぐに失点につながるぞ」と言えば、選手は「ミスをしちゃいけない」という気持ちに凝り固まってしまう。
逆に、「ここが勝負どころだぞ」と言えば、「よし、絶対に集中を緩めちゃいけない」と考える。マイナスのイメージばかりを徹底して勝利を引き寄せるようとするのは、非現実的と言わざるを得ません。とくに試合前のマネジメントでは、ポジティブな指標を与えるようにします。
佐々木 実は私には失敗がありましてね。男子の高校生年代を指導していた際に、上級生に遠慮がちな1年生がいたんです。攻撃のセンスには見どころがあるのですが、守備がいまひとつ物足りなかった。私は彼に、「守備をもっと頑張れ」と言い続けました。
ある日の練習を、彼は欠席しました。翌日も、その翌日も姿を見せてくれない。どうしたのかと思って理由を聞きにいったところ、「佐々木さんとは一緒にサッカーをやりたくない。守備、守備、守備って怒られてばかりで、サッカーが楽しくない」と告げられたのです。申し訳ないことをしてしまった、という気持ちでいっぱいでした。
山本 いまなら絶対にやらない指導でしょうが。
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