J-POPが激変した時代〜宇多田ヒカルの登場と20世紀の大掃除

小室哲哉さんは、宇多田ヒカルさんの登場を「時代が変わると思った」と振り返ります。一体何が衝撃だったのでしょうか?
CDから「聴き放題」のストリーミング配信への転換が進み、音楽ビジネスは新しい時代を迎えようとしています。音楽ジャーナリスト・柴那典さんがその実情と未来への指針を解き明かす新刊『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)。11月15日の発売に先駆けて、cakesではその内容を特別先行掲載します(平日毎日更新)。

「刷り込み」によってヒットが生まれた

 音楽プロデューサーとして本格的に活動を始めた90年代の小室哲哉が最初にタイアップの威力を実感したのが、1994年7月、TMNの活動終了の直後にリリースした「篠原涼子 with t. komuro」名義のシングル『恋しさと切なさと心強さと』だった。

 「この曲、イニシャル(初回出荷枚数)が2万5000枚だったんです。『まあ、そんなに行かないだろうな』と思われていた。それが3ヵ月経って2週連続1位になったのは『ストリートファイターⅡ』の力が大きかった」

 1994年7月に発売されたこの曲のオリコン週間シングルランキング初登場順位は20位以下だったが、その年の8月に公開されたアニメーション映画『ストリートファイターⅡ MOVIE』の主題歌に用いられたことで話題を呼び、9月、10月に同ランキングで1位を獲得する。

 「映画を観た帰りに、小学生の男の子がお母さんに『これ買って』と言って、置いてあるCDを買ってくれたことで火がついた。映画の力、ゲームの力を借りて、枚数の結果が出た。その実数を見せたことで『売れたんだね。200万枚超えてるんだ』ということが、テレビやメディアにも広がっていった」

 90年代のヒットは「指標」ではなく「数字」だった、と彼は強調する。その背景にあったタイアップの仕組みについては「『いい曲』と『売れる曲』の間の架け橋になるもの」と位置づける。

 「やっぱり、刷り込みは必要なんですよね。それはたとえば映画でも同じです。たとえ面白くても、公開した時に認知度や知名度がなかったら、そこに人は集まらない。だから上映前に必死にプロモーションをかける。

 今の時代は、高校生から大人までいろんな人に実際に聴いてもらって『どう思う?』って訊いたら『かっこいい』とか『良い』って言ってくれる曲も多いんですけれど、その手前で、刷り込みができないままで終わっちゃうから沈んでいくような曲もたくさんある」

 ヒットを生み出すために重要なのは「刷り込み」だった、と小室は言う。そのために最も効果的だったのが地上波テレビへの露出だった。

 「CMでも、ドラマの主題歌でも、地上波のテレビに流れることで、楽曲をみんなに浸透させることができた。やっぱり『月9』が一番強かったですね。番組自体の視聴率も高いし、楽曲が番宣のCMにも使われる。何千万人が一気にそれを聴く。そこからCDが売れて、それがチャート1位になって、また注目を浴びる。相乗効果ですごい波及力を持っていたんです」

宇多田ヒカルの登場と20世紀の大掃除

 こうして90年代に一時代を築き上げた小室哲哉。ただ、その栄華は長くは続かなかった。

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ヒットの崩壊

柴那典

「心のベストテン」でもおなじみ音楽ジャーナリスト・柴那典さん。新刊『ヒットの崩壊』では、アーティスト、プロデューサー、ヒットチャート、レーベル、プロダクション、テレビ、カラオケ……あらゆる角度から「激変する音楽業界」と「新しいヒットの...もっと読む

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コメント

yothu (前記事の続き) 1年以上前 replyretweetfavorite

consaba 小室哲哉  90年代の #ss954 #radiko 1年以上前 replyretweetfavorite

HALUNAX リアルタイムで体感したものとしては 宇多田ヒカルさん DragonAshさん の、登場でJ-POPヒットチャート戦国絵巻は変わっていったと思います。 ヒット曲というものが何処から飛び出してもおかしくなくなった。 https://t.co/PLaPsQB6GK 2年弱前 replyretweetfavorite

kiruhachi この本は面白そう。 2年弱前 replyretweetfavorite