お店がメディアに取り上げられることの功罪
林伸次(以下、林) 飲食店がメディアにとりあげられることについて、どう思われますか? 良い面と悪い面があると思うのですが。
石渡康嗣(以下、石渡) 東京で生きていたら無視できない問題ですよね。けど、本来はどうでもいいことなんですよね。飲食店を存続させるのがゴールであれば、その間ちょっとドーピングするのはありなんじゃないかとも思います。でも、おいしいものを提供し、おいしいものが好きなお客さまに来てほしいということがゴールであれば、ドーピングはいらないと思う。なんのために飲食店をやっているのかによると思います。
林 石渡さんが手がけているような飲食店だと、どういうときにドーピングが必要になりますか?
石渡 例えばですけど、我々のような事業者がやっているようなカフェって、主人公であるべきオーナーが不在ってことが多い。本来的な、オーナーの人柄だけでお客さまを惹きつけられるような飲食店なら、そんなことはしなくていい。我々の場合は、街づくりのためにその街の人を雇用する、といったこともやらなければならない。店本来の魅力が十全でない場合、残念ながらある程度メディアとのおつきあいは必要と考えます。
林 なるほど、街づくりっていう視点はすごいですね。それと僕の店は個人でやっていますけど、雇用ってしたあとだけじゃなく、するまでにもお金かかるんですよね……。そういう意味でもドーピングは大事なのかもしれませんね。
石渡 そういうことですね。
林 ただ、いくらPRがんばっても、例えば僕の業界だと今ってお酒が飲まれない時代ですよね。外食産業の未来ってどうなると思いますか? 石渡さんって、もうお酒で食べていこうと思ってはいないですか?
石渡 その発想は今はないです。外食産業としては、ケータリングがすごいと思う。飲食店の空間の意味が変化してきていると思います。空間への過大な投資はますます意味を問われると思います。
林 いわゆる中古レコード屋とか古本屋は、店舗だと儲かっていないけど、インターネット通販の売上で儲かっているのと似ていますね。
石渡 土地に縛られる必要はもう無いんじゃないかなって思います。僕がもし林さんで、来月までに300万円儲けなければならないとなったら、bar bossaの看板を背負って、ケータリングしますね。出張してワインのサーブをします、みたいな。
林 それは面白いアイデアかもしれませんね。ただ、お酒自体はどうでしょう。たばこが全然吸われなくなったのと同じように、これからどんどん衰退していくと思いますか?
石渡 バーでの立ち居振る舞いなんかを教えてくれる、酒の師匠っていたじゃないですか。僕はまず大学時代に先輩に教わり、サラリーマン時代には課長や部長に居酒屋からカラオケ、ありとあらゆる場所での酒の飲み方を教わるんです。今の若い人たちの何が不幸かって、僕らがそれを教えてこなかった。そういう人たちが何を注文するかというと、「カシスウーロン」になっちゃったんですね。
林 我々が、彼らに嫌がられても教えるべきと。
石渡 徒労に終わることかもしれないですが、誰かがずっとやり続けないととひっくりかえらない。
bar bossaが海外に進出?
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