ある人にとっての悪者が、ある人にとってはヒーローだ、なんていうことはよくある話だ。
私のおじいちゃんは——いま、目の前のソファで、足の悪いルネおばあちゃんのひざかけをかけ直しながら微笑んでいるルネおじいちゃんは——75年前、当時の政権にとって“悪の組織”とされていた団体への入団希望者だった。もっとも今のルネおじいちゃんは、フランスを守った英雄として、数々の勲章を持つ伝説のヒーローになっているのだけれど。
1941年。
ナチスドイツの手に落ちたパリで、若かりし頃のルネおじいちゃんはやきもきしていた。敗戦により、フランス陸軍中尉の肩書きも失い、非常勤の派遣教師として、わずかな配給のパンを噛みしめる生活。戦時中の日本と変わらない灯火管制により、パリは夜ごと深い闇に飲まれていた。
そんな暗闇にあってもルネおじいちゃんは、ふたつの光を見据えていた。
ひとつは、預金供託金庫の採用試験への合格。
もうひとつは、当時の政権にとっての“悪の組織”——ナチスドイツに抗う革命集団、レジスタンスへの入団である。
「当時のパリでは、みんなどんな生活をしていたんですか?」
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