ハロウィンは魔女コスプレであふれる東京…でも、魔女の本当の歴史は恐ろしい。

今年も近づくハロウィンの季節。ハロウィンといえば、仮装。その中でもすぐに思いつくのは、黒い三角帽子に、黒いマントがトレードマークの「魔女」。毎年ハロウィンが近づくと街中でもよく見かけます。
だけど、ハロウィンって仮装することがメインのイベントじゃないはず…。「魔女」も、ハロウィンとどんな関係が…?

ライターのしおたん、こと塩谷舞さんが"魔女の専門家"である西村佑子さんに聞いた本当は怖い魔女の史実。それは、ヨーロッパで生まれた魔女たちの哀しい歴史でもありました…。

こんにちは。ライターの塩谷舞(@ciotan)です。

パリピと、非パリピを一瞬で仕分けるあの日が、今年も迫ってきました。そう、ハロウィンです。

駅ビルのトイレを我が楽屋のように使い、派手なコスプレに着替えて街に集まるのか。それとも、SNSでその様子を見ながら「そもそもハロウィンって、コスプレ祭じゃないでしょ(笑)」としたり顔でつぶやくのか……。

卑屈な心を持って育ってしまった私は圧倒的後者なのですが、ハロウィンはコスプレ祭じゃないわよと言いつつも、「じゃあ何が正しいのか」というのも実は知りません。ドンキ前に並ぶ魔女のコスプレに「今年もきたか!」と怯えながらも、「では、正しい魔女とは何なのか」と聞かれると、それもよくわかりません。

魔女ってそもそもファンタジー世界の創造物だから、正解もなにもないのでは? そう思っていたのですが……ドイツの小学校では「魔女の歴史」を勉強するんだそうです。

「あら楽しそう、ホグワーツ魔法学校みたいね」と思うと、大間違い。

そこにはけっして目を背けてはいけない、魔女の悲しい歴史がありました。

本当は怖い魔女の史実。ドイツの魔女事情に詳しい西村佑子さんに、聞いてまいりましょう。


西村佑子さん

西村さんはこれまでに『魔女の薬草箱』『グリム童話の魔女たち』『魔女の生き方』など、魔女に関する多数の著書を出されたり、日本全国を巡回した「魔女の秘密展」を監修されたりした、魔女の専門家

さらに、魔女になるための修行を積み、ご自身の魔女名「ザーゲ」まで持っていらっしゃるという、日本屈指の魔女なのです。


塩谷舞(以下、塩谷) 西村さん、今日は私たちの知らない「本当の魔女」について教えていただきたいのですが……。

西村佑子(以下、西村)  はい。私はドイツの魔女が専門だから、そのあたりのことを中心にお話ししますね。ちなみにドイツは、「魔女狩り」の犠牲者がダントツに多い国なんですよ。

塩谷 魔女狩りって、具体的にはどんなことだったのですか?

西村 15世紀から18世紀、近世のヨーロッパでは大変な苦難の時代を迎えます。
長い戦争がありました。また「小氷河」という寒冷の時代でもありました。人々は大飢饉に苦しみ、しかもペストのような疫病が蔓延し、多くの人が亡くなりました。

塩谷 えっ……。 でもそれは自然災害や衛生面の荒廃だと思うのですが、魔女になんの因果関係が?

西村 15世紀の後半ですが、ヨーロッパで絶大な力を持っていたカトリック教会の頂点に立つ教皇が「人々がカトリックの信仰を忘れてしまったから、悪魔や魔女につけ入られてしまったのだ。このように人々をたぶらかす異端者は、見つけて処罰しなければならない!」という教書を出したんです。

塩谷 うわ……。

西村 しかも、「その仕事を怠けているのはドイツだ」と名指して非難したものですから、ドイツでは「異端審問」がそれはそれは厳しく行われるようになりました。

塩谷 ひどい話ですね……。とはいえ、ドイツに住むひとたちも困ったのでは? そんな、魔女のせいだなんて言われても信じがたいですし……。

西村 そうですよね。でも人々は「この苦境から逃れることができるなら」と、魔女探しに奔走したんですよ。

塩谷 「魔女探し」って、一体どうやって見つけるんです? 魔女といったって、まさか毒リンゴを配るわけじゃないでしょうし。

西村 たとえば牛乳が腐ったりしたら、それは「ミルク魔女」のしわざとされ、雨が続けば「天候魔女」のしわざとされました。
「魔女」にされやすかったのは、社会から疎外されている人や、貧しくひとり暮らしをする老女、少し変わった人…などでした。

塩谷 牛乳が腐っただけで!

西村 牛乳は生活に欠かせないチーズやバターの貴重な原料でしたからね。

塩谷 でも「あいつがミルク魔女だ!」と言われても事実無根なわけで、「はいゴメンナサイ、私が魔女でした」と自白することは、ありえませんよね?
なのに社会的に魔女だと決めつけて、殺してしまうんですか?

西村 もちろん、裁判で「魔女だ」と断定するには本人の自白が必要です。ですから、自白させるために、拷問が行われたのです。

塩谷 むちゃくちゃだ……。聞くのも怖いんですが、どんな拷問を……?

西村 焼いて高熱になった鉄を手に持たせて、そのあと布で手を包みます。3日経って何も跡が残っていなければ「無実」という判断をしたそうなのですが……

塩谷 え、普通の人間なら、火傷や傷の跡が残りますよね。

西村 もちろんです。だから、理不尽な判定なんです。
ほかにも、鉄製のトゲだらけの椅子に座らせたり、「指締め」とか「苦悩の梨」など、身の毛のよだつ拷問道具があったのです。

塩谷 ……そこで耐えきれずに「私が魔女でした」と言えば、拷問からは解放されるんですか?

西村 いえいえ、魔女だと認めたのですから、解放どころではありません。薪の山に吊るされ、火炙りの刑に処され、二度と復活しないよう灰になるまで焼かれるのです。

塩谷 ……。でも、そんなことをしても、何の解決にもならないですよね。ミルクだって本当は気温や細菌で腐った訳ですし。魔女だと誰かを殺しても、またミルクは腐るんですよね。

西村 そうですよね。ところが、恐ろしいことに、魔女だと自白してもそれで終わりません。だったらお前を魔女に誘い込んだのは誰なんだと密告を強要されたのです。こうして魔女狩りは芋づる式に広がっていったのです。
そしてあらゆる人が「魔女」にされ……貧乏人も、浮浪者も、子どもも、市長も、司祭までも、魔女狩りの対象になったんです。

塩谷 つらすぎる……。ちなみに、「魔女」というからには、拷問されたのはみんな女性だったのでしょうか?

西村 いいえ、男性も一部いました。でもやっぱり男尊女卑の時代ですから、魔女として殺された8割は女性です。

塩谷 はぁ……。

西村 そもそも、英語の「witch」やドイツ語の「Hexe」という単語は女性に限定されていないのですが、それを日本では「魔女」と訳してしまったので、少々ややこしくなってしまったのです。

塩谷 なるほど。魔女=女性、という訳じゃないんですね。知らなかった……。
そんな西洋の魔女狩りは、いつ終わったんですか?

西村 ドイツで最後に行われた魔女裁判は、1775年でした。でも魔女への偏見は20世紀中頃まで続いていました。ドイツのケルン市議会が、2012年に、魔女の子孫とされていた38名の名誉回復を決議したんです。

塩谷 つい最近のことじゃないですか……!

西村 日本では信じられないですよね。でも西洋では、魔女として処刑された先祖の名誉を回復することは、とても重要なことなんです。


「恐るべき存在」から「愛される存在」に姿を変えた、ファンタジーの中の魔女

塩谷 そんな悲惨な歴史があったのに、どうして私たちは「魔女」をファンタジーの中の存在として、肯定的に見ているんでしょう?

西村 ファンタジーとしての魔女は、実は男性の妄想から始まったと私は思っています。
「魔女」という、自分たちとは少し違う特別な存在に、エロティックな魅力を感じた……それがファンタジーの魔女の起源ではないかと。


愛の魔法』(作者不明、15世紀)

塩谷 へぇ!

西村 だから、魔女に関する絵画や物語のほとんどが、男性作家によるものなんですよ。

塩谷 想像力は恐怖の歴史すら変えてしまうのですね……。


現代の魔女たちが集うのは、ハロウィンだけじゃない。

塩谷 もうすぐハロウィンですが、やっぱりハロウィンと魔女って関連性が高いんですか?

西村 ハロウィンはもともとケルト人が、秋の収穫の日に悪霊を追い払って、新年を迎えた行事に由来していますよね。その追い払う悪霊として、魔女のイメージがついたのかもしれませんが……ケルト人が追い払うのは、あくまでも悪霊なんですよ。

塩谷 そうだったんですか。

西村 それよりも魔女にまつわる行事としては、4月30日のヴァルプルギスの夜が代表的ですね。

塩谷 ヴァルプルギスの夜!安野モヨコさんの描いた魔女の作品『シュガシュガルーン』に出てきたから、知ってます(笑)。たしかブロッケン山に、魔女たちが集まる夜でした。

西村 そう、あれです。
現代のヴァルプルギスの夜は、ドイツ各地から魔女や悪魔の格好をした人々がブロッケン山に集まるんです。その夜はビールや蜂蜜酒を飲み、ソーセージを頬張り、音楽にあわせて夜中まで踊ります。翌日5月1日は全国休日ですから。

塩谷 それは楽しそう…!

西村 私も毎年この時期には必ず、ドイツに遊びに行ってます(笑)。

塩谷 いいですねぇ……!西村さんは、歴史の魔女もお詳しいけど、現代の魔女、そしてファンタジーの魔女のことも熟知されていますよね。

西村 今お話しに出ましたけど、安野モヨコさんが魔女を描いた『シュガシュガルーン』も読ませていただきましたよ。ヒロインの魔女・ショコラはとても前向きで可愛らしいけれども、王子様であるピエールはとても黒いハートを持ち、王国から迫害されている……ある意味魔女らしい存在ですよね。

塩谷 確かに……!ピエールが統治する「オグル」も、長らく王国から迫害されてきた存在です。

西村 いち読者としては、ピエールとショコラがオグルの「黒い心」を持ったまま大人になって、それぞれの道を見つけていく……そんな物語も読んでみたいな、だなんて思ってしまいましたね(笑)。

塩谷 やっと明るいお話になってきましたが……今日は西村さんのお話を聞いて、魔女の事実を知れば知るほどに、ハロウィン気分が盛り下がっております。

西村 いやいや、現代ではハロウィンに魔女のコスプレをするのも、ありなのかな…とも思います。だって、みなさんとても楽しんでいますもの。
でも、やっぱり私としては、ハロウィンでコスプレをした少女が大人になったときに「魔女の服装って、ハロウィンのコスチュームの1つだと思っていたけど、そういうものではなかったのね」と知ってもらえると嬉しいですね。

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本当は哀しい魔女の歴史

塩谷舞

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コメント

f_2insoul 「異端」はいつの時代も生き難い…けど何か力強さを感じます。 2年以上前 replyretweetfavorite

chiruko_t 大学の講義でやったなあ。  2年以上前 replyretweetfavorite

byusjp >ファンタジーとしての魔女は、 実は男性の妄想から始まった と私は思っています。 「魔女」とい... via @komachibypass https://t.co/gKstEXtsVZ https://t.co/zj5I6kcmcd #highlite 2年以上前 replyretweetfavorite

doujin_cosplay コスプレの話題: 2年以上前 replyretweetfavorite