法の力でクリエイターの自由を守り、表現方法を拡張する
——自分の事務所を構えてから、転機になった仕事はありますか?
大きな分岐点になったのは、芸術家集団「Chim↑Pom」の案件ですね。2011年の5月1日に、彼らが岡本太郎の壁画の隙間部分に、原発事故を思わせる絵をゲリラ的に設置したんです。それが軽犯罪法違反であるとされて、書類送検された。その刑事弁護を担当し、不起訴に持ち込むことができました。
——まさに彼らの「表現の自由」を弁護士として守ったわけですね。メディアでもすごく話題になりました。
もうひとつは、ライゾマティクスの真鍋大度さんと一緒にやった人気アーティストのオープンソース・プロジェクトですね。音楽やダンスのモーション、3Dスキャンデータなどを世界中に無料配布したんです。
——オープンソースのプロジェクトであったところが新しかった?
いえ、それまでもオープンソース関連の仕事はけっこう前からありました。例えば、YCAM (山口情報芸術センター)との仕事で、さまざまな成果物をオープン化するというものがあります。その流れで、契約書までをオープン化するというプロジェクトもやっています。
——契約書をオープンにしてしまうんですか。
そう、YCAMは地方の芸術センターとしてどういった存在意義を持つか、ということに対してすごく戦略的な取り組みをしています。基本的な活動としては、先進的なアーティストやエンジニアを集めてさまざまな研究開発プロジェクトを立ち上げる。で、その過程で生まれたソースコードや3Dデータなどをオープン化するんです。施設は地方にあっても、ネットでデータを共有すれば、たくさんの人にプロジェクトに関わってもらえますからね。そうした取り組みについて、僕も顧問としてずっと関わってきました。そして2011年頃には、制作物だけでなく、制作環境自体もオープン化したいという話が出て。アーティストとどのように共同開発をしているのか、その計画や権利の帰属などを記載した契約書の雛形もオープンにすることになったんです。そうすることによって、世界中どこからでもYCAMの活動を参照して、同じようなことをその場所でも取り入れることができるようになるわけです。
——おもしろいですね。
僕自身もこのプロジェクトで、YCAMのエンジニアたちと一緒に契約書をつくるという体験をして、すごく刺激を受けました。僕は、現代でもっともクリエイティブでおもしろい職能がプログラマ、エンジニアだと思っています。もちろん、人によりますけどね。彼らは法律の専門家ではないけれど、情報をどう整理したらいいか、どういうふうに記述すると正確であるか、といったことについて積極的に意見を出してくれました。その経験は、僕の普段の契約書作りにも影響を与えています。
というわけで、オープン化についてのプロジェクトはいろいろやってきたのですが、先程お話しした人気アーティストのオープンソース・プロジェクトは、当時は権利保護ガチガチのポピュラー・ミュージックのフィールドで一般の人達も巻き込んでいくプロジェクトであったところが、新しかったんですよね。規模も桁違いですし、どうやってライセンスを設計するかを真鍋さんとあーでもない、こーでもないと議論して知恵を絞りました。
仕事は「自分のため」にやったほうがいい
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