「勝算なし」から始まった写真集づくり
—— 写真集の企画は、藤森さんが「鍛えた体を見せたい!」という希望からはじまったそうですね。
藤森慎吾(以下、藤森) ええ、「鍛えた体を見せたい! じゃあ、脱いでる写真集を出そう!」っていうすごく単純な動機ですね。
中田敦彦(以下、中田) まずはヨシモトブックスに「僕たち、写真集で勝算ありますかね?」と聞いたんです。そしたら、「ないです! 出せません!」とはっきり言われて(笑)。
藤森 だから、一度あきらめたんです。でも、あっちゃんが「この人は真の変態だ!」と「ラジオな2人」で何度も紹介していた青山さんがゲストで来てくれて、「一緒に写真集作りましょう!」って言ってくれた。だから、青山さんは僕たちの救世主なんです。
青山裕企(以下、青山) 本当に出せてよかったです。
—— 中田さんは、青山さんの作品のどこから「真の変態」だと思ったのですか。
中田 まず『スクールガール・コンプレックス』(イースト・プレス)を読んで、青山さんのファンになりました。その時はまだ女子高校生や制服という「記号」を使うのがうまい人なのかな、という印象だったんです。でも、『むすめと!ソラリーマン』(ダ・ヴィンチBOOKS)を読んだときに、めちゃくちゃ笑ったんです。「この人……バカだな!」と思って(笑)。しかも、これはすごくエロい写真集でもあるな、と。
—— 「エロい」ですか? どちらかというとコミカルな印象かと思うのですが……。
中田 確かに出ているのは一般の女の子で、肌も1ミリも露出していない。でも、娘の横でお父さんが跳ばされている。この「物語を想像させる」ところが、エロいんです! お父さんは、本来はその子たちを守る役割があって、男子からすれば怖い存在。でも、そのお父さんが、手塩にかけて育てた娘の隣、笑顔で跳んでいる……このギャップに僕は萌えた。読むと「背徳感」すら感じる、まさに“真の変態”にしか作れない写真集なんです。
—— な、なるほど。「オリラジの二人による同性どうしの同棲一週間」というコンセプトは、はじめから決まっていたのでしょうか。
青山 いえ、最初はただ、僕のフェチな作風とオリエンタルラジオさんを掛け合わせた写真集を作ろうという企画でした。このテーマ、決まるまで実は難航したんです。
中田 藤森くんは「とにかく脱ぎたい!」 一方、“青山さんらしいもの”を追求したい僕は「脱がなくていいし、最悪顔が出なくてもいい」というスタンスで。これって真逆ですよね(笑)。
—— そこからどうやって、「DOUSEI」というテーマに?
青山 KADOKAWAの編集者さんから「二人の関係性が欲しい」という意見と、「同じ部屋で、一緒にご飯を食べている」「一緒に住んでいる」というシチュエーションのヒントをもらったんです。そこから一気に「同棲」というテーマに辿りつきました。
中田 同棲していれば、二人の関係性も見せられるし、生活しているんだから、藤森くんも脱げる(笑)。「同性」と「同棲」のダブルミーニングの「DOUSEI」というタイトルに、全員のニーズがおさまって企画が一気に進みましたね。
青山 こんなにも、タイトルが決まった瞬間に「これはいいものが撮れる!」と思ったのは初めてです。ちなみに「同棲」と「同性」に加えて、僕の中では「動」と「静」もテーマとして持っていました。一つの言葉の中に、いろんな意味が入った“いい記号”ができたな、と思いましたね。
撮られている僕らですら、何がいいのかは正直分からない
—— この写真集で作り手から見た、ぐっとくるポイントはどこでしょうか?
中田 それが、撮られた僕たちも、正直何がいいのか分からないんです(笑)。
中田 例えば、耳の写真。これを見ても、何も感じない人が大半だと思います。でも、中にはぐっとくる人がいるんです。特に女性に多いと思うんですが、どうですか?
cakes女性編集者 私は読んで一番気になったのは、耳でした!
中田 そう! まさにそういう声を聞くために、この写真集を作ったんです!
藤森 ハイタッチしたい気分だね!
中田 でも、そうやって女性の方から「耳の写真、ぐっときました!」と言われても、「僕の耳っていいんだな」とはならない(笑)。結局、僕みたいなアンテナのない人が見ても、この写真集はなんのこっちゃわかんない。でも、それでいいんです! 「アンテナのない人には、まったく意味の分からない良さ」こそが青山さんの武器で、それこそがフェチなんです!
青山 これは、そういうフェチや、「分かりたいけど、分からない女性目線」を想定しながら、男たちが四苦八苦して撮った写真集なんですよ。女の子の場合、「女の子の太ももっていいよね」みたいに、恋愛対象としていなくても、「女の子が女の子を愛でる」っていうことはあると思うんです。
中田 「かわいい女の子好きの女の子」っていますよね。
青山 でも、男の子同士はなかなかいなくて、そこには男女差があると思います。オリラジのお二人も、私も男性。撮影の時は、KADOKAWAの編集さんをはじめとした女性の意見を聞きながら、「女性からみた男のエロスって、ここなのかなー」という感じで、撮り進めていきました。
藤森 リビングの撮影中に、編集さんから「パプリカ、持ってください!」と言われて。「パプリカ持つのは、キッチンじゃない?」って思いながら、わけも分からず持ったら、「それ、いいです!」って褒められて(笑)。
中田 男三人でキョトンとしながら、「これが、女性目線というものなのか……」みたいな(笑)。
青山 不思議なもので、女性目線も分かりたいと思って撮っていると、だんだん分かった気になってくるものなんです。でも、やっぱり完璧には分からない。その間で揺らぐ撮影でしたね。
中田 この写真集は、僕たちが見えないニーズに合わせようと格闘した記録。僕たちが売ろうとしているものは、僕たちの目には見えないものです。つまり『DOUSEI』は、女性読者を中心とした、アンテナのある人にしか見えない、“透明な写真集”。これを私は“静かなる革命”と呼んでいます!
藤森 ちょっと僕はついていけないですね(笑)。ちなみに、女性目線で他に気になった写真はあります?
cakes女性編集者 「ヒゲの剃り残し」とか、「肌の質感」ですかね。どちらも近くで見ないと、分からないようなものなので、オリラジのお二人が目の前にいるかのようで、恥ずかしくなって思わず目を背けてしまいました。
中田 これは嬉しい感想! 青山さん、聞きました?
青山 やりましたね! 「目を背ける」っていうのは、「汚い」「キモい」からじゃなくて、「見てはいけないものを見てしまった」っていう背徳感のようなものだと思うんです。そうやって写真を見て、感情が動いたという感想をいただけると、本当に嬉しいですね。
中田 僕たちにはないアンテナで、この写真集を褒めてもらえる、そして、「そうそう、これが欲しかった!」というリアクションがあったときに、作ってよかったと思えますね。やっぱり、これは静かなる革命なんですよ!
次回 男同士の距離感に、女性はキュンとする? は、11月16日(水)更新予定
構成:山本隆太郎