書き手として商売として有料のメルマガ出して得しましたか?

有料メールマガジン「毎日のように手紙は来るけれど」を2011年4月から毎日ほぼ欠かさず配信してきた歌人の枡野浩一さん。実際に有料メルマガを始めてみて、どのような実感を持たれたのでしょうか。たっぷりのボリュームでお届けします。【2020年9月の追記あり】

—枡野浩一さんは有料メルマガ「毎日のように手紙は来るけれど」をほぼ毎日発行しているそうですが、儲かっていますか?

「たぶん皆さんが思うほどは儲かっていません。皆さんがどのくらいの儲けのイメージを持っているかわからないのですが、『購読者が1,000人以上いて、メルマガを発行するだけで食える』みたいな成功者にくらべたら、まったく儲かってないと言ってもいいくらいだと思います」

—購読者数は今どれくらい?

「メルマガを始めたのは去年2011年の4月1日からでした。始めて2カ月で購読者が200人を超えました。当初そのくらいの人数を目標にしていたので、その目標はすぐ達成したという感じです。でも最近、津田大介さんが『購読者300人が(成功の)目安』みたいなことをユーストリーム放送でおっしゃっていましたね。『メルマガに限らず、まず300人に支持されると、どうにか転がっていく』みたいな意味あいのことを」

—なぜ200人を目標にしていたんですか?

「有料メルマガを先に始めていたライターの渋井哲也さんに、『無料コンテンツのとき1万人が支持してくれている場合、有料化してもついてきてくれるのは100分の1くらい』と伺っていたからです。私は当時ツイッターのフォロワーが11,000人を超えたくらいでした。だから有料化してついてきてくれるのは110人くらいかなと。ただ、それだと収入的に割に合わないので、もし200人くらい購読者がいるようだったら、続けてみようと思いました」

—そのあと購読者数は?

「じつは今、200人を切ってしまっています。毎月、月末になると10人くらい読者が減り、ひと月かけて少しずつ読者が増えていきます。それで増えたり減ったりしながら、ずっと200人前後を保っていました。が、今年の5月末くらいに『メルマガはこれからこういうふうに書いていきたい』的なことを書いたら、読者がごっそり減って。さらに6月、メルマガをあまり丁寧に発行できない毎日が続いてしまって、さらに減って。一時は180人くらいになっていました。それからまた少しずつ増えてきて、きのうで190人です」

—丁寧に発行できなかったというのは?

「阿佐ヶ谷で小さな店舗物件を見つけて、そこで『枡野書店』という、仕事場を兼ねた小さな店を始めたんです。その物件にNTTの光ファイバーをひきたくて、6月1日に申し込んだのに、工事完了が6月25日だったという。3週間ほどネット環境がなかったので、ネットカフェでメルマガを出したりしていました。自宅に電車で帰れなかった日は、シャワーもネットカフェで浴びたりして。ネットカフェ難民になったような、ひと月でした」

—そのまえに、ごっそり読者が減ったというのは?

「『メルマガはこれからこういうふうに書いていきたい』みたいなことを書くと、読者が離れるみたいですね。ツイッターも、ツイッター活動自体についてウンヌンするとフォロワーが減るんですけど。きっと読者が冷静になってしまうんでしょう。それまで期待値で読んでくれていたのに、『あ、そんな内容になるなら自分には必要ないな』って気づいてしまうのかもしれない」

—発行自体は続いていますよね?

「はい。ほぼ毎日です。先月500号とかでした。長く書く日もあるけれど、短歌一首だけの日もあるし、俳句一句だけの日もあります。どうしても発行できない日があった場合は、翌日は朝と夜の2回発行したりもします」

—よく書くネタがありますね。

「皆さんだってツイッターで毎日書いてるでしょう? 私のメルマガは極端に言えばツイッターのつぶやきを有料化したようなものなので、書くこと自体はそんなに難儀ではないです。無理は全然しないし。mixiがまだちゃんとしたサービスだったころ、『友人まで公開』の日記を熱心に書いていたんですよ。『枡野の書くものの中で一番面白い』と複数の人に言われていたので、いつか何らかの形で公開できないかと思っていたのですが、今それをメルマガで連載しています。『昔のmixi日記』というくくりで。今は2006年4月5日あたりです。現在の自分のコメントも書き添えています」

—2006年。6年以上前ですね。

「小学校に入学した子供が卒業するくらいの歳月です。離婚して会えなくなった息子に会うために、親権を取り戻す裁判を起こそうと当時考えていました。結局その裁判はやらなかったんです。離婚の話は始めると長くなるので割愛しますが」

—それでも毎日発行するのは大変ですよね?

「どうしても外出先から発行しなければならない場合もあります。あらかじめフォーマットを下書きとして用意しておいて、iPhoneからアクセスすれば発行できるようにしてあるんです。あまり長い文面は書けませんが、短歌や俳句くらいなら飲み会の途中ででも発行できます。酔っぱらって、書いている途中のものを発行してしまったこともあります。そういうミスは、すべて自分のせいなので、その点は逆に、あきらめがつくという感じです」

—編集者は、ついていなんですか?

「松尾スズキさんの有料メルマガは、フリーの編集のかたが関わっているようですね。私は自分で書いて、自分で発行しています。人によるみたいです。まぐまぐという会社とは、人の紹介で接点を持ったので、私の担当をしてくださっている方は、一応いるんです。困ったときにメールすると、助けてくれます。でも、基本いい意味でほったらかしにしてもらっていて。そのほうが自分には合ってるみたい」

—誤字脱字のチェックなんかはどうしてるんですか?

「ツイッターと同じで、誤字があったら、誤字のまま配信されてしまいます。あとから修正もできません。だから前の日のメルマガに誤字があることがわかったら、次の日のメルマガに訂正記事を書くようにしています。バックナンバーを売る仕組みもあるのですが、バックナンバーも文字修正はできないんです。その記事のバックナンバーを、売るか売らないかは自分で決められるのですが、私は基本、ほとんどの記事をバックナンバーとしても販売しています。リアルタイムで読んでくれている方へのサービスとして、リアルタイム限定の記事をごくたまに書くことはありますが」

—バックナンバー、売れます?

「私の場合は、そういう読者が意外といるみたいです。そのせいか購読者が200人弱でも、収益がやや多めになっているみたいです」

—収益はぶっちゃけ、いくらですか? ひと月577円という価格設定ですよね?

「短歌のリズムが57577なので、その後半部分をとって577円にしたんです。語呂合わせで。とくに意味はないんです。最初のひと月は無料で、2カ月目から課金されます。購読者が200人いたころは、ひと月の収入が7万円くらいだったかな。今は少し減りました。先月まで借りていた吉祥寺のアパートの家賃が、ちょうど7万円だったんです。毎日こつこつ書いているメルマガで、家賃ぶん稼げれば、まあまあかなと思っています。今は枡野書店の物件の家賃が7万円よりは多いから、メルマガ以外の収入を増やさないと、とても生活はできないですね。いま家庭の事情もあって、住居は東京都下にある実家なんです。でも食事代も光熱費も吉祥寺での一人暮らしの時と変わらない感じです。ごくたまにテレビに出たり講演をやったりはしますし、単発の原稿依頼は途切れなく来るんですが、連載などのレギュラー仕事が今ないに等しいので。そのへんの窮状は吉田豪さんのインタビュー集『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)を読んでください」

—確定している収入は、毎月7万円くらい?

「『毎日書いていて、それだけ?』と、驚かれてしまうこともありますが。私は大学生のころ、原稿用紙換算50枚くらいの日記を毎日ワープロ専用機で書いていたことがあるくらい、物理的に書くのは早いんです。小説とかは書くのが遅いんですが。日記やツイッターみたいに、考えなくても書けるものは早いです。ツイッターで書いていた詩が『くじけな』(文藝春秋)という詩集にまとまったのですが、あれなんかは、ほとんど推敲していなくて、思いつくまま自動筆記的に書きました」

—まぐまぐの取り分と、枡野さんの取り分の、割合はどうなってるんですか?

「それは、まぐまぐのサイトで情報公開していると思うので、さがして読んでください。もしかしたら200人くらいだったら、私が個人で直接発行したほうが儲かるのかもしれないけれど、集金とか、そういうのがとにかく苦手なんです。これからもまぐまぐを離れることはないような気がします。じつは別の会社からも声をかけていただいたことはあるんですが、書いたものを事前に編集部に渡すシステムだというので、それはちょっと気が重かったんです。そういう原稿らしい原稿は、依頼があったとき書いているからいいやと思って」

—他社からも声がかかるって、凄いですよね。

「いや、自分のほうから興味を持って他社にメールで問い合わせをしてみたら、担当の方が阿佐ヶ谷の枡野書店まで会いに来てくれたんですよ。しっかりした感じの方でした。『毎日きまった時間に発行することで、読者の生活習慣の中に、メルマガを読む時間というものを組み込むといいんです』みたいなアドバイスをいただいたのですが、自分はそんな厳密な感じのことはできないと思いました。じつは、まぐまぐを紹介していただく前にも、別のメルマガ会社の方から『枡野さんは有料メルマガに向いてると思う』というスカウトのメールが届いていたんです。でも、その会社では出さないことになってしまいました」

—どうしてですか?

「当初は新宿二丁目の飲み仲間の中村うさぎさん、伏見憲明さん、枡野浩一の3人でひとつの有料メルマガを出すという案が立ち上がっていて。その3人と、ある小さなメルマガ会社の代表の方とで、食事したんですよ。人柄はいい感じだったけれど、特に明確なビジョンがあるわけでもない印象でした。そしたら、当時私が所属していた芸能事務所の若い社長さんが、あの「美人時計」の創業者だった方なんですが、ネット界に幅広い人脈を持っていて。まぐまぐの社長さんを私たちに紹介してくださったんです。その後、うさぎさんはまぐまぐで、占いに関するメルマガを発行することになりました。伏見さんは、まぐまぐではなく、個人が1人1人にメールを一斉送信するという形での無料メルマガを発行しています。3人でひとつのメルマガを、という実現していないアイデアのことは、私がメルマガを創刊したときに受けたインタビューでも少し話しているので、ご参照ください。ちなみに人の紹介によってスタートしたせいか、インタビューをしていただいたり、色々宣伝してくださったりしていますが、手数料の仕組みなんかは、一般の有料メルマガの発行者と同じなんだと思います」

—コラムの連載仕事として考えると、31本書いて7万円では、わりに合わないですよね。

「まあ、平均しても1本あたりの文字数、少ないですからね。『朝日新聞』とか『週刊朝日』で毎週コラムを書いていたころは、一本あたり7万円くらいはもらっていたのかな? 5万円くらいだったかな? 遠い記憶すぎて忘れてしまいましたが。でもメルマガは、あとで本にまとめたりしないつもりなんです。本に将来まとまらないような、『まかない飯』みたいなことを書いていきたいと思ってるんですよ。って、そういうふうにメルマガ内で宣言したら、読者が減ってしまったんですが」

—「まかない飯」ですか。飲食店で、料理人が身内で食べるためにつくる食事ですね。

「昔、ある著名人の有料メルマガを1年間購読していたことがあるんです。年会費1万円でした。なかなか面白かったんですが、メルマガに書かれたことが、すぐ本にまとまってしまうから、だったら本を買って読めばいいやと思って。購読は1年でやめてしまったんです」

—年会費1万円のメルマガって、もしや?

「あ、固有名詞は勘弁してください。小田嶋隆さんのメルマガではありません。というか小田嶋隆さんはメルマガは発行していません。松本隆さんのでもありません。お察しください。その著名人のメルマガは年会費1万円で、購読者が1,000人以上いるというふれこみでした。つまりメルマガだけで年収1千万円以上です。ほんとうにそんなにいたのかな? と今は疑っています。もし購読者が1,000人だったとしたら、その著名人のツイッターのフォロワー数は100倍の10万人くらいいないとおかしいような気がするんです。町山智浩さんとかが、有料メルマガに胡散臭いイメージを持っているようなのは、その著名人のメルマガのせいなのではないかとすら思っています」

—町山さんは有料メルマガに向いていそうな人気のある書き手ですよね。

「そう思います。有料メルマガのイメージを変えるようなものを発行してほしいです」

—ほかにも有料メルマガを出すといいのではと思う方はいますか?

「やはり有料メルマガに懐疑的な、小田嶋隆さんも、向いていると思います。でもご本人がよしとしないのなら、よしとしないままでいてほしい気もします。元〈ABブラザーズ〉の小説家、松野大介さんのファンなんですが、松野さんが有料メルマガを発行してみたいとのことだったので、まぐまぐのスタッフの方をご紹介したことがあります。しばらくは発行されていたみたいですけれど、今は休止中なのかな? 知名度がある人がやったからといって、必ずしも読者は大量にはつかない、という話をきいたことがあります。私自身、テレビに出たりラジオに出たりしても、関係ないです」

—枡野さん、『踊る!さんま御殿!!』を筆頭に、わりとよくテレビに出演されてますよね。

「テレビに出た月も、そうでない月も、読者の増減のペースは同じくらいです。テレビなどで枡野を面白がる人と、枡野の文章を面白がる人は、層がまったく別なんだと思います。最近はツイッターでも、あまりメルマガの宣伝をしなくなりました。購読者からの反響は、ツイッターから拾ってはここにまとめていますが。そんなに毎日毎日、感想が届くわけではありません。どんな人が読んでくれているのかは、私のほうでは確認できないので、感想だけが頼りなんです。どうやら私より有名な書き手の方々も購読してくださっているようで恐縮です」

—どんな方々ですか?

「固有名詞はご勘弁ください。こちらのまとめに、その方々の感想が出てくる場合もあります」

—固有名詞以外は、数字など、具体的におしえてくださって、ありがとうございました。

「どういたしまして」

—枡野さんは枡野書店も始められたし、色んな活動をされているという印象があります。根本的な話ですが、それらを始めようと思ったきっかけは何でしょう?

「枡野書店の店舗物件を借りられたのは、昔書いた『ショートソング』という小説が集英社文庫のナツイチのキャンペーン本に選ばれて、たくさん増刷されたからでした。そういう、数が読まれる本も出していきたいけれども、もっと小さな規模の、受け手の顔が見えるような活動も同時にやっていかないと、これからは立ち行かなくなるんじゃないかという予感があるんです。地震を予知して逃げる鼠みたいに、危険をあらかじめ察知するようなところが私にはちょっとあるんですよ。ある雑誌の連載を自らやめると、その雑誌がつぶれたりとか。有料メルマガも、枡野書店も、今は小さな活動だけれど、将来の自分をたすけるような気がなんとなくしています」

—そうなるといいですね。

「あと最近、ニコニコ動画の会社がメルマガ界に参入しましたよね? 『ブロマガ』。あれは動画も配信できるみたいで、ユーストリーム放送『枡野書店ラジオ』をやっている身としては、気になります。ネットは、色んなサービスが生まれますね」

—cakesも、どうぞよろしくお願いします。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。今回、打ち合わせで有料メルマガについて書いてみてくださいということになって、書きます書きますと引き受けてしまったのはいいのだけれど、しめきりが近づくにつれて気が重くなってきてしまって。なんだか、有料メルマガに懐疑的な方々が、いっせいにツッコミをいれてくるような気がして、怖くなって、どうにもまとまらなくなってしまいました。そこで苦肉の策で、インタビュー形式で書いてみることにしました。質問しているのも答えているのもどちらも枡野浩一自身ですが、おつきあい、ありがとうございました」

—ありがとうございました。

【2017年9月の追記】2017年9/19現在は、まぐまぐ配信が75名。個人で直接配信しているのが126名です。『5000円払った人のアドレスに毎日メールが1年届く』https://twitter.com/toiimasunomo/status/909825863650181120

【2020年9月の追記】2020年9/8現在、まぐまぐ配信は完全に休止していて、バックナンバーのみ販売中。noteで毎日の日記を有料公開している他、個人で直接メール配信しているかたが69名います。個人での直接メール配信は今月いっぱいで廃止するかもしれません。

※漫画家の古泉智浩さんとやっている「本と雑談ラジオ」でも、メルマガを話題にしています。https://youtu.be/wjG6V6SzhXo

「プレイボーイとチェリーボーイが女性を取り合ってイチャイチャしながら短歌を詠んだりする話で10万部くらい売れました」

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枡野浩一

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toiimasunomo 枡野浩一です。日刊メルマガ #kurukeredo まとめ売りの〆切が9/23なので宣伝を連投します。「毎日メールが届く」という体験をあなたに。《 約4年前 replyretweetfavorite

toiimasunomo 【近況】「枡野浩一直送! ほぼ日刊メルマガ365日分」 #kurukeredo は年1度の販売。http://t.co/Zo4y5kXM6k 申込〆切は本日9/23(火)いっぱい! 誕生日プレゼントと思ってぜひ。以下の記事もご参考に。https://t.co/5EqOuCHdNG 約6年前 replyretweetfavorite