昼に起きる私が5時半に起きたら、思いがけないことがあった

前回、とんでもないトラブルで「畑なんかやめる!」と泣いていた金田さんですが、今回はうってかわって「畑に行きたくてたまらない」と思わせる出来事が起こります。金田さんを魅了した朝の世界とは、どのようなものだったのでしょうか?

野菜がカラッカラに枯れてしまうよ

「明日は5時半に起きて、畑に行くよ!」

ある晩、夫がそう宣言した。夏野菜が、すくすくと育っていたころだ。

「もう3日間天気がいいだろ。心配だよ。会社へ行く前に、水やりに行ったほうがいいと思うんだ」

「平気だよ。そのへんの草や木も、枯れてないでしょ」

ちょっと晴れが続いたくらいで植物が枯れていたら、日本はとっくに砂漠だよ。

「野菜は枯れるんだってば。それに、キュウリがすごくのびてただろ? 支柱にまきついているか心配なんだよ」

夫はイライラしている。なにをするにも丁寧な人だが、「畑なんてぜったいに手伝わない」と言っていた人間とは思えない。


キュウリは、支えがないと倒れてしまう野菜です。

「いいよ。じゃあ行こうよ。でもねぇ」

毎朝、墓からよみがえったゾンビみたいにやっと7時に起きる人が、ゴルフでもないのに早起きできるわけがない。

私は予言した。

「あなたはきっと目覚ましを止める。それで二度寝して、起きたときには会社も遅刻という悲劇にみまわれるであろぉぉぉ!」

翌朝5時半。

夫は私の予言どおり、スマホのアラームを止めてまた寝た。ところが、不意に「うわっ!」と飛び起きたのだ。

「な、なにっ!?」

「水やりに行かなくちゃ!」

時計を見ると、6時を過ぎている。

「もう遅いってば。時間ないよ」

畑までは車で8分ほどだが、これから水やりなんかしていたら、夫は遅刻だ。

「ぼくにはないけど、きみには時間がある」

「はあ?」

「トイレに行きなさい。Tシャツはそのままでいいけど、ズボンははきかえたほうがいいよ」

「ありえない。ぜったいいやだ。ぜったい行かないよ!」

「トマトが枯れてもいいの?」

「だから、枯れないってば!」

「枯れるんだよ。レタスもトウモロコシも、みんな枯れてしまうよ。カラッカラに枯れてしまうよ」

「…………」

呪いのように言われると、そんな気がしてくる。

夫は、日焼け止めを塗る時間すら与えず、帽子だけかぶせると、私を畑に連行した。


当時愛用していた帽子です。この朝は、もちろん花などナシですが。


なんなんだ、この爽快感は

「ぜんぶの野菜にたっぷり水をやるんだよ。それと、雑草をぬいて、虫も退治してね」

夫は車から出ようともせず、私を助手席から押し出し、ペットボトルの水を渡した。

「いっしょにやろうよ」

「むり。ぼくには会社があるから。バイバイ」

笑顔で手をふると、ほんとうに私を畑に置き去りにして帰ってしまったのである。

車が角を曲がって消えると、畑はとても静かになった。

人がいない。だれもいない。広い地球にひとりぼっちだ。

雑木林に囲まれた農園の上に、青い空が広がっている。

こずえでは鳥たちが、「朝が来たよ」と歌っていた。「へんな女が来たよ」と騒いでいるのかもしれないが。

私はしばらく突っ立ったままぼーっとしていたが、やがて、あることに気がついた。

空気がいいのだ。

少し湿って、少しつめたい。木々が生み出したばかりの酸素なのだろうか。なんなんだ、この爽快感は。

思わず深呼吸してしまう。

「気持ちいい……」

これって夢かな。なにしろ、ほんの15分前までは布団の中で寝ていたんだから。

私は現実をたしかめるように、畑を歩いてみた。

「やっぱりね。ぜんぜん枯れてないじゃん」

野菜はみんな、葉の先端までピンとしている。ひときわ目を引いたのがズッキーニの花だ。黄色い、大きな花。


ズッキーニは、キュウリに似ていますが、カボチャの仲間です。


「朝に咲くんだね」

それまで、鼻をかんだあとのティッシュみたいな、しぼんだ状態しか見ていなかったので、その美しさに胸が震えた。

ミツバチが飛んでいる。

こんな朝早くから、ハチは働き者だな。しかもタダで野菜の受粉を助けてくれるなんて。ちょっと土を耕したくらいで、「バイト代よこせ」とわめく夫とは大違いだ。

トウモロコシの葉に、朝露が光っている。

「あっ」

目が合ったのは、葉と茎のすき間にいたカエルだった。こんな間近でカエルを見るのは、久しぶりだ。この子も、畑の害虫を食べてくれているのだろう。

「おはよう」

カエルはちらっと私を見たが、「あと30分寝かせて」という顔をした。

「だよね。私も眠いよ。さっさと水やりして、帰って寝よう」


これは別の日ですが、カエルはトウモロコシのここが、好きみたいです。


私はジョウロに水をくむと、野菜たちの根もとにまいて回った。

はす口から出る水が朝日にあたって、キラキラと輝く。

土にしみこんでいく水を見ていると、自分の肌までが潤っていくようだ。

まちがいなく気のせいだけど。


でも、心は潤いましたよ。これはホント。

「朝には朝の世界があるんだねぇ」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

sadaaki どういうわけかcakesのこの記事がいまめっちゃ読まれてるんですが、たしかにこの連載、おもしろいんですよ。畑やりたくなります。 2年弱前 replyretweetfavorite

ayumimatsuda 仕事の無い日は何故か早く目がさめる。早朝の空気の"THE 新鮮!"って感じ好きだなぁ。 2年弱前 replyretweetfavorite

cucciolo_rs16 確かに、朝には朝の風景がある。 https://t.co/Mq5SPugSkG 2年弱前 replyretweetfavorite

suerene1 畑やガーデニングをやるきは今のところないけど、読んでいると魅力的に感じちゃうね。 →  https://t.co/RbryvvTzrx 2年弱前 replyretweetfavorite