インタビューの抜粋は、SFマガジン2016年12月号に掲載されます。(インタビュー&翻訳:中原尚哉・編集部)
——USJで中心となる登場人物のベンは、見た目よりも複雑な人物ですね。また、昭子は魅力的なタフな女です。この二人にはモデルがいますか?
ピーター・トライアス(以下PT) USJで最初に執筆したのは、ベンの過去にまつわる秘密を明かすエンディング部分です。そのため、多くの意味で、タマネギを中心から外へと創造していくような感覚でした。ベンは厳密にはタマネギではありませんが、危険な状況に陥ってしまった才能あるプログラマで、彼の知る最良の方法でその状況を乗り切ろうとしています。その方法とは「気にしない」ということです。少なくとも「気にしないふりを装う」ということです。思考でさえ検閲されているこの物語の社会では、体裁と見せかけがきわめて重要です。人々に本心を隠させるようになります。その意味で、登場人物一人一人が解きあかすべき謎で、一つ謎を解いたと思うとさらに別の層を見いだすことになります。
この謎解きの旅が、USJの執筆をやりがいのあるものにした原因の一つです。昭子はその代表例でしょう。昭子は「特高」の一員で、ジョージ・ワシントン団を名乗るテロ・グループのような反体制活動家を追跡して捕らえています(ジョージ・ワシントン団は、キリスト教の神が一人の女性として生まれ変わったと信じているカルト団体の一部です)。昭子は日本帝国の正当性を信じ、帝国が善をなしていると確信していて、その信念を護るためにはなんでもします。強い名誉の感覚を持ち、社会体制を護るいっぽうで、ただ抜け目ない戦士であろうとしている。昭子は現代のサムライだと思っています。道徳的に曖昧に見えるかもしれない任務を遂行する強さを持ち、大局に集中して、手を汚すことなしに権力をたもつことはできないと信じて(作中で、言葉どおりの意味で手を汚すことになるわけですが)、より広い展望に集中する。帝国の腐敗をいくつか暴くことになったとき、昭子の信念体系が試されます。その内面のバランスのとり方が、彼女をあれほど魅力的にしています。
このベンと昭子の対話は、日本帝国における二人の人生への向かい合い方のちがいを示しています。そして二人の関係は、物語が展開していく重要なポイントになります。
——著者としてUSJでお気に入りの登場人物は誰ですか?
PT すべての登場人物が、それぞれちがったところでお気に入りですね。だから、一人だけ選べるかどうか。昭子は書くのが一番厄介でしたが、もっとも興味をそそる。ベンは、私と性格が似通っている点が一つか二つあるからか、もっとも自然に描写することができました。執筆するのにもっとも楽しかったのは、若名(わかな)将軍です。実をいうと、映画『硫黄島からの手紙』で渡辺謙が演じた役柄をもとにしました。二人とも強い名誉の感覚を持ち、聡明で、彼らが暮らす世界の厳しい現実を知り過ぎていることからくる魅力があります。
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