「モデル上がりの女優」「ライター上がりの作家」
「モデル上がりの女優」という言い方を躊躇なく使えるのは、モデルよりも女優が上位にいると皆が認知しているからであって、そこに「AV落ち」なんて言葉をぶつけてみると、人様の上下降を職種で判別しているのだから、私たちったらすこぶる適当である。ライターを名乗る自分の身に置き換えるならば「ライター上がりの作家」や「作家くずれ」なんて言い方が用意されるが、途端に「別に作家に上がろうとする気はないし、そもそも作家様から下った場でライターをやっているつもりなどない」とすっかり機嫌を損ねてしまう。「モデル上がりの女優」という言い方に対しては、女優に上がった元モデルも、女優に上がっていないモデルも、その都度機嫌を損ねているのではないか。
モデル上がりの女優は「演技がヒドい」と言われがちだ。劇団出身の女優は「演技が上手い」と言われがちだ。確かに多くの場合においてそのテーゼの通りではあるのだが、人様の上下降を職種で判別する私たちは、実際にその演技を見る前から、あらかじめ減点や加点を済ませてしまう。モデル上がりの女優、本田翼と山本美月がW主演を務めた新作映画『少女』を観に行ったのだが、個々人が抱える安直な闇が「これが伏線となりますので!」とシーンごとに声高に主張され続ける映画で、「それって伏線と言えるのかしら」と首を傾げてしまった。言葉としては矛盾するけれど「単純な複雑構造」がなかなか苦しかった。でもそれは観る前に済ませておいた減点が影響しているのかもしれない。
困るシーンでめっちゃ困り、泣くシーンでめっちゃ泣く
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