美容整形は、自由診療なのでそれぞれのクリニックが自由に値段を決めることができる。美容外科のホームページを見たことがある人は分かると思うけれど、手術代は普通の女の子が簡単に払える金額ではない。大きな手術では100万円なんて簡単に超えてしまう。
初めて整形した高校時代は、お年玉とアルバイトで貯めたお金を使った。高校卒業後は、時給800円のコンビニでバイトをしてコツコツとお金を貯めていたが、私は悩んでいた。
もっと可愛くなりたい。もっと整形したい。
でも、お金が足りない。
そんなとき目に入ったのが「キャスト募集!キャバクラ時給8000円!」の広告だった。それはすごく魅力的だった。同じ時間働いても、給料が倍以上もらえる。一刻もはやく整形したかった私は迷うことなくホステスの仕事をすることを決意した。
こうして私の夜の生活が始まった。
田舎の小さいラウンジで
とはいっても、夜の仕事に関する知識もなく、周りにキャバクラで働いている友達もいなかった私は、いきなりキャバクラで働く勇気はなかった。そこで最初はこぢんまりとしたラウンジに面接に行った。
「あの…夜職の経験はないんですが…働きたいです…」
緊張しておどおどしていた私を、お店は快く受け入れてくれた。時給は2500円。ホステスの女の子は全部で5人。お客さんは常連さんばかりのお店だった。
女の子たちはみんな仲良くて優しかった。その中でも、特に気にかけて私の面倒をみてくれたのが一番最年長のマユさんだった。マユさんは当時38歳。18個も下の私を「妹みたい」といって可愛がってくれた。同伴の仕方やお客さんの引っ張り方、テーブルマナーなど、夜の仕事に必要なことを1から教えてくれて、相談もたくさん乗ってくれた。
田舎の小さいラウンジ。お客さんは少なく、夜の仕事の中では時給も低い。普通に生活するには十分な金額だったけれど、整形するにはまだまだ足りなかった。お店はすごく居心地が良かったからずっとここで働きたいな、という気持ちもあったけれど、私には美容整形という目的がある。若いうちに、一刻もはやく可愛くなりたいと思っていた私は焦っていた。
「マユさん、私、お店辞めます」
驚くマユさんに、私は全てを話した。整形するために夜の仕事をはじめたこと、いつまでもこのまま居心地がいい場所で甘えていられないこと、誰よりも可愛くなりたいという目標があること、もっと上を目指したいこと。
マユさんは何も言わず、うん、うん、と頷きながら聞いていた。そして最後に「可愛くなって、どうしたい?」と私の方を見て微笑みながら聞いた。
私は、マユさんの質問に答えることができなかった。
将来、私には何が残るのだろう
これまで「可愛くなりたい」と突っ走ってきたけれど、「可愛くなったあと」のことは考えたことがなかった。
チヤホヤされたい。モテたい。特別扱いされたい。
私が人生を賭けて必死に頑張っていることは、こんな薄っぺらいことだけのためなの? 誰のためにもならない、自分の欲望だけのために親を悲しませて友達を傷つけてるの? なんだか自分がすごく意地汚くて滑稽に見えた。
気づいたら、周りの友達は教師になるために大学に通ったり、看護師になるための資格をとったりしていた。
自分だけ取り残されてるような疎外感と、ひとりぼっちのような孤独感。
みんなちゃんとした夢があって結婚して子供ができて。私には「可愛くなりたい」というぼんやりとした夢しかない。私には将来、何が残るのだろう。
整形したって可愛くなれる保証はない。それに、生まれてくる子供の顔は今の自分の顔とどれくらいかけ離れてしまうのだろう。
頑張ってお金を貯めて痛い思いをして整形して、なにに繋がるのだろう。
美容整形なんてしない方が幸せだったのかもしれない。自分の顔を受け入れて身の丈にあった暮らしをしたほうがよかったのかもしれない。
「もう整形は辞めよう。普通に仕事して、まあまあの人と結婚して、平凡な生活ができればいいじゃない」
そう思う一方、
「だめだよ。もっと整形して、可愛くならなきゃ。もっともっとキラキラした世界を見たい。刺激的に生きたい」
と、別の自分が囁いてくる。2つの気持ちの間で私は葛藤していた。
本来なら整形なんてしないほうがいいのだろう。頭の中では分かってる。「整形しなさい」と、だれかに言われたわけではない。なのに、整形を繰り返していると美容整形は「しなくちゃいけないもの」のような義務感に襲われてしまう。
私は、「整形依存症」になっていた。
一度狂ってしまった歯車は戻らない。私は「可愛くなったあと」に答えを見つけることができないまま、整形費用を作るために「風俗」という手段を選んだ。
美しさはお金さえも惹きつける
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