死にたい夜は、ずっと、明けない。
夜がずっと続いているみたいで、朝なんかやってこない。
今まで何度も死のうと思った。
21歳でシドヴィシャス、27歳でカート・コバーンが死んだから、僕も彼らのように光の速さで生きるんだとずっと思ってきた。でも、何者にもなれず27歳になってしまった。
頭の中の街と、その中でしか生きれなかったカイブツ。
その容れ物である僕が壊れてしまった。
断たれた希望。潰れた心。壊れた人間性。破綻して行く人生。
でも死ねない。
完全自殺マニュアルのページのどこにも、カイブツの息の止め方は載っていなかった。
生きたくない。生きたくない。生きたくない。
死にたい夜を越えられない。
ふとテレビを点けると、たまたま美しい外見に生まれただけの人間が、その顔に生まれていなければ、成立しないような、つまらないことばかり、ほざいていた。
美しい外見にあぐらをかいた、あまりにも薄っぺらい、くだらない人間を、ありがたがって、祭り上げている世の中が、あまりにも、アホらしくてテレビの画面を睨みつけた。
あの画面の中に、絶対に映し出されることのない、この感情。
あの画面の中に、絶対に映し出されることのない、この絶望。
そう思いながら、チャンネルを替えると、あの人が画面の真ん中に映った。
テレビの中に、あの人が居た。
死にたい夜を超え続けたあの人は、あの画面の中に到達した。
死にたい夜にも、夜明けはやって来て、いつの日か、朝はやってくる。
それを身をもって、証明してくれていた。
あの人は、僕の光だった。
その一筋の希望の光にしがみつき、死にたい夜を超えて行く。
眠れずに夜中にふらふらと歩いていたら、警官に出くわして、職質に遭った。
ハガキ職人時代から、しょっちゅうされた職務質問。出くわすたびに、思った。
まるで、この世界にいて欲しくない人間だって、言われているみたいだ。
金がなくて、腹も減っていて、絶望を抱えていて、だけど、どんなに苦しい時も、誰かから奪ったりするほど、落ちぶれてはいない。
正しさを一瞬でも、濁した瞬間から、今まで努力してきたことや、苦しんできたことさえ、ウソになってしまうような気がした。
だから、犯罪なんかするくらいなら、今すぐ死を選ぶって、警官に、そう言ってやりたかった。
無実の、でもただ絶望しきってヨレヨレの人間に、存在理由の確認をしてくる警察なんか、僕は正義だとは思わない。
夜空を見上げると、月が浮かんでいる。
もしも手を伸ばせば、アレに手が届くのだとしたら、今すぐ掴んで、地球に叩きつけている。
人をそんな感情に変えて、警官は去って行った。
その夜、久々にピンクから電話があった。
「この前、バー行ったらさ、おまえみたいなヤツおったわ。
42歳なんやねんけど、ずっとメモ帳持ち歩いててな、自分の行動を全部メモしてるねん。
で、そいつの字、めっちゃ汚いねん。お前の字にそっくりやねん。
そいつ42歳で、まだ童貞やねんてさ」